The previous night of the world revolution4~I.D.~
バーの入り口に目をやるも、人の気配はない。

と言うことは…ちゃんと、一人で来たようだな。

「華弦…だったか」

「えぇ、そうです」

…本当に来た。

何らかの罠ではないかと思ったが…そういう訳ではなかった。

「あれから、潜伏先は変えましたか?」

「あぁ、変えたよ」

あのアパートメントからは、あの後すぐ退去した。

まだ入居したばかりなのにもう出ていくのかと、大家さんには言われたが。

「この度無事結婚することになったので、自分の実家で結婚生活始めます」と、ルリシヤが出任せを言ったところ。

おい待てお前、なんてことを、と俺が言う前に、大家さんはにっこにこしながら、

「あらあら~。それはお幸せに」と言って、快く送り出してくれた。

今度は、反対側の王都の端っこに居を構えた。

こっちも同じような二人暮らし用アパートメントで、またしても「カップル」として入居した。

非常に不本意だが、怪しまれない為には仕方ない。

「そうですか。なら、ひとまずは安心ですね…。でも、くれぐれも気をつけてください。あなた方のこと、探してますから」

「…ルレイアが?」

「えぇ、そうです」

…。

「華弦、ルレイア先輩は…どうなってる?今何処にいるんだ?」

…聞きたいことは、山のようにあるが。

俺は衝動を押さえて、大人しく引き下がった。

「ルレイア・ティシェリーは今、ルレイア・ティシェリーではありません。彼は自分のことを、ルシファーと名乗っています」

「…ルシファー…」

…言わずもがな…あいつの、昔の名前だ。

かつて捨てたはずの名前。

「…ルルシー先輩、ルシファーというのは…確か、ルレイア先輩の昔の名前だったな?ウィスタリア家にいた頃の…」

「…そうだ」

あいつが望んで、その名前を使うはずがない。

二度と名乗ることはないと思っていたのに。

敢えて、その名前を使うということは。

…やっぱり、正気を失っているんだ。

「…洗脳されてるんだな?アシミムに」

「そうです。ルレイア…ルシファーは、ヘールシュミット邸に来てすぐ、薬物による洗脳を受けました」

「…」

「シェルドニア王国でも、非常に強い部類の薬です。常人なら、人格が崩壊するほどの…」

「…大丈夫か、ルルシー先輩」

「…」

俺は、強く拳を握り締めた。

爪が食い込んで、血が滲むのが分かったが…自分でも止められなかった。

ここが公共の場で良かった。

周りに誰もいなかったら、間違いなく机や窓をぶち壊してしまっていただろう。

あいつら…ルレイアに、なんということを。

「…続けても宜しいですか?」

「…あぁ、続けてくれ」

俺は衝動を必死に押さえながら、話の続きを聞いた。
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