The previous night of the world revolution4~I.D.~
俺は、煮えたぎるような怒りを感じた。

今目の前にアシミムがいたら、確実に殺していた。

繰り返し言うが、ここが公共の場で良かった。

暴れて、手がつけられなくなっていたことだろう。

「…ルルシー先輩。落ち着け」

「…はぁ…はぁ…」

俺は必死に自分を抑えた。

今ここでキレても仕方がない。今は何も出来ないのだから。

ルリシヤが冷静でいてくれたのが幸いだった。ルリシヤまでキレてたら、俺も自分を抑えきれなかったはずだ。

…ようやく、あの忌々しい『ホワイト・ドリーム号』で見た、悪夢の理由が分かった。

悪夢を見させて、その恐怖が大きければ大きいほど、洗脳は「効きやすく」なる。

当たり前だ。誰だって、地獄の底を這うような辛い体験をしているときに、誰かに救い出されれば、その人を神格化する。

かつてルレイアと…最初に出会ったとき、あいつが俺を「救世主」だと言ったように。

あれを、アシミムはもう一度やり直したのだ。

今度は、自分が「救世主」になる為に。

自分の言うことを何でも聞く、自分のしもべにする為に。

…はらわたが煮えくり返るというのは、こういうことを言うのだ。

「元々アシミムが狙っていたのは、ルレイア・ティシェリー一人だけでした。ルルシー・エンタルーシアに関しては…ルレイア・ティシェリーに対する人質、あるいは邪魔になるようなら殺すつもりで、シェルドニア王国に連れてきました」

「…」

俺はあくまで、ルレイアの付属品、って扱いか。

まぁそうだろうな。

俺なんて、ルレイアがいなかったら、ただの脱け殻みたいなもんだ。

「ちなみに…ルリシヤ・クロータスに関しては、当初は想定していませんでした」

「やっぱり、そうか。じゃあ船室の手配を間違えて、急遽ルレイア先輩達の隣の部屋を宛がわれたのは…偶然ではなかったんだな」

「はい。ルレイアとルルシーの両名に同伴している要注意人物ということで、あなたも監視の対象になりました。最初は、単なる付き添いかと思われていましたが…」

蓋を開けてみると、俺より遥かに厄介な相手だった訳か。

「ルシードがカジノで俺に勝負を挑んできたのも、監視の為だな?」

「そうです」

「成程…。全く、人気者は辛いな」

「勿論、あくまで私達の本命は、ルレイア・ティシェリーだけでしたけどね」

だから、あのルシードって男は、ルレイアだけを執拗に『白亜の塔』に誘ったのか。

ルレイアを…集中的に洗脳する為に…。

船の中で悪夢に苦しんでいるルレイアを思い出すだけで、身が千切れるような思いになった。
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