The previous night of the world revolution4~I.D.~
私の幸せな時間がおかしくなり始めたのは、シラノが14歳、私が13歳になった頃です。

私の主、アシミムは奴隷に手をあげることはなく、特に私に対して、乱暴な真似をすることは全くありませんでした。

あの頃の私は、アシミムの忠実な従者でしたから。

外出するときは、いつも私を連れていきました。

彼女が買い物に行くときには、私にも新しいワンピースや髪飾りを買ってくれることもありました。

私はアシミムに心から仕えていましたし、アシミムの奴隷になれて良かった、とさえ思っていました。

今となっては、吐き気すら感じますが。

それはともかく、私はアシミムに仕えていたから、幸せでした。

しかし、シラノは違います。

シラノは、ラトヴィの奴隷でした。

同じヘールシュミット家の奴隷も言っても、この違いは、私達の境遇を天と地ほども分ける要因になりました。

ラトヴィはアシミムと違って、奴隷に優しくはありませんでしたから。

奴隷に対する暴力は勿論ですが。

それ以上に厄介だったのは…ラトヴィが、女奴隷に手を出すタイプの主人だったことです。

前王も同じことをしていたから、ラトヴィも悪びれなかったのだと思います。

ラトヴィは自分の女奴隷に平気で手を出し、飽きたらあっさりと捨て、また奴隷市場に売り戻すという、最低な男でした。

しかも、もし自分が手を出した女奴隷が身籠れば、無理矢理堕胎させていたそうです。

私は、ラトヴィがそんなおぞましいことをしているなんて…シラノに教えられるまで、知りもしませんでした。

事実、シラノの母親は…シラノが10歳のときに、ラトヴィに妊娠させられ、無理矢理堕胎されたのですが…それが原因で体調を崩し、あっさりと亡くなってしまいました。

シラノの母親は、異国人である私を、自分の娘のように可愛がってくれた人でした。

特に、私がまたヘールシュミット邸に来たばかりの頃は、いつも私の面倒を見てくれました。

私の服がほつれれば、夜なべをして繕ってくれましたし。

私が熱を出せば、仕事の合間を縫っては私の世話をし、厨房を借りて私の為にお粥を作ってくれました。

シラノの母親は、私のことを自分の娘だと言ってくれました。

私もシラノの母親のことを、自分の母親だと思っていました。

だから、母が死んだときは、本当に悲しかったです。

シラノは母が死んだ理由を、ただ「病死」としか言いませんでした。

主人に無理矢理強姦され、妊娠させられ、堕胎させられた結果亡くなったなんて、とても私には言えなかったのだと思います。

自分だって悲しかったに違いないのに、私が泣いていれば、慰める側に回って、私を励ましてくれました。

「私がいるから。お母さんはいなくなったけど、でも私があなたを守ってあげるから」と、彼女は繰り返し、繰り返しそう言いました。

私と一つしか違わないのに、シラノは私の姉のように振る舞い、姉のように私を守ってくれました。

もしあのとき、母の死因を知っていたら。

私は、戦慄のあまり泣くことも出来なかったでしょう。
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