The previous night of the world revolution4~I.D.~
…折角、俺が格好良い感じで啖呵を切ったのに。

「…お前、何で俺の寝顔知ってんの?」

ルルシーは、物凄く冷静だった。

いやん。それは乙女の秘密。

「しかも、『格好良い』だけ二回も言うな」

「大事なことだから、仕方ないじゃないですか」

「あとアシミムの悪口言い過ぎ」

「だって事実ですし~」

元々俺はな、年増は好みじゃないんだよ。

しかもこいつは敵なんだから、容赦をしてやる必要はない。

「無理をするな、馬鹿…。手、大丈夫か」

ルルシーが駆け寄ってきて、俺の手のひらを止血してくれた。

あらやだ。優しい。

「危ないとこは切ってないですよ」

「そうだとしても…。無理するな」

もー。ルルシーったら心配性。

でも、やっぱりちょっと痛いから、優しくしてくれると嬉しい。

…さてと。

「…残念でしたね」

十八番の洗脳術も効かないとなれば、こいつらに最早打つ手などない。

さすがのルシードも、戦況が不利なのは理解しているらしく。

その表情に、やや焦りが見えていた。

「…主よ、お逃げください」

ルシードは、アシミムにそう指示した。

ほう。逃がすか。

自分の命を賭してでも、アシミムを逃がすつもりなのだろう。

実に殊勝な企みだが、そうは行かない。

「…逃がしませんよ。逃げられると思ってるんですか?」

俺は少々手負いになってしまったが、ルルシーもルリシヤも万全の状態。

更に、今ここにはいないが、監視カメラを通して、華弦もこの部屋の様子を見ているはず。

いざとなったら、彼女が最後の防壁になってくれることだろう。

圧倒的に不利な状況だというのに、ルシードは臆することなく突っ込んできた。

その心意気だけは見上げたものだ。

しかし。

「ルルシー!」

「あぁ!」

ルティス帝国本国から、使い慣れた自前の拳銃を持ってきてもらったルルシー。

それだけでも充分な脅威だろうが、そのルルシーと俺が組めば、最早敵などいない。

一気に追い込まれたルシードは、態勢を整えようと一歩退いたが。

俺達『青薔薇連合会』には、期待の新人幹部がいる。

「悪いな。チェックメイトだ」

そしてこの新人幹部、実は俺より多才である。

ルリシヤは緑色のボールを、ルシードにぶん投げた。

音響弾の類かと、目を庇おうとしたルシードに。

ルリシヤの靴の踵に仕込まれたスタンガンが、激しい火花を散らした。

「ぐっ…!」

こればかりは…どうすることも出来ないな。

ルシードは、刀を落とし、床に膝をついた。

気絶しなかっただけ、立派なもんだ。

部屋の中に広がる、上品なフレグランスボールの香り。

こんなものにやられたのかと思うと、ルシードもやりきれないだろう。

別にルシードが弱い訳でも、間抜けな訳でもない。

「…相手が悪過ぎますよ」

正直、俺達三人を相手にして…勝てる人なんて、この世にいるのだろうかと思うほどだ。
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