The previous night of the world revolution4~I.D.~
彼らの呪詛の呻きに怯え、俺は必死の思いで廊下を走り抜けた。

怖かった。この恐怖は知っていた。

いつも、学生寮でいじめられていたときに感じていたものだ。

腹の底から膨れ上がるような、重くて大きな恐怖。

身体から冷や汗が噴き出し、歯がガチガチと鳴った。

そのとき、俺はルレイアではなかった。

ルシファーだった。

帝国騎士官学校で、いじめられて、誰も味方がいない、一人ぼっちのルシファー。

必死に廊下を駆け抜けて、俺が向かったのは、学生寮だった。

何で、自分から檻の中に入ろうとするのか。

それでも、俺の足は吸い寄せられるように学生寮に向かっていた。

「はぁ…はぁ…」

分かっているのに。

そこが俺にとって、一番恐ろしい場所だと分かっているのに。

俺は、学生寮三階のN室に立ち入った。

そこにいたのは、いつも通りのメンバーだった。

いつもと違うのは、彼らが既に死体になっていることだけ。

ベリエスは部屋の中で首を吊って、ぷらぷらと揺れていた。

シューレンは顔がぐちゃぐちゃになって、生ゴミのように床に残骸が散らばっていた。

他のルームメイトは、全員腹を切り裂かれて蹲っていた。

全員が死体なのに、その目だけは。

俺を憎む殺意の眼差しだけは、全て俺に注がれていた。

「…!」

俺は後退りして、逃げようと踵を返した。

でもそれを阻むように、姉がそこに立っていた。

その目は、俺を憎んでいた。

姉は俺に、裏切り者、と言った。

あまりの恐怖に、俺はその場に、ぺたんと座り込んだ。

…違う。

この恐怖は知っている。でも。

この恐怖は、長くは続かないのだ。

だって、助けてくれたから。

そう。ここは俺にとって地獄のような場所だったけど。

でも同時に、救いの場所でもあるのだ。

助けてくれた人がいるから。俺を地獄からすくい上げ、生きる意味を与えてくれた人と、初めて出会った場所。

だから、助けてくれるはずなのだ。

彼が、俺を助けてくれる。

そのはずなんだ。そうでないと。

そうでないと…!

「…!!」

かつて俺を助けてくれた「彼」は、恐怖に怯える俺を、無表情にじっと見下ろしていた。

…ほら、彼はちゃんといる。

俺は無意識に、彼に向かって手を伸ばした。

彼なら、この手を掴んでくれるはずだ、と思った。

かつてそうしてくれたように…。

しかし。

彼は冷たく俺を見下ろし、そのまま踵を返して、一人で暗闇の中に歩いていった。

「っ!」

待って。

置いていかないで。

だってあなたがいなかったら、俺は。


< 56 / 580 >

この作品をシェア

pagetop