The previous night of the world revolution4~I.D.~
俺が立っているのは、帝国騎士官学校の教室の中だった。

「…?」

周囲を見渡すと、そこにはクラスメイトがいた。

クラスメイトには、目がなかった。

目がないのに、口だけはあって、その口は歪んだように笑っていた。

俺の方を向いて、笑っていた。

「…!?」

一歩、二歩と後退り。

前を見ると、壇上に人が立っていた。

教官だ。

俺を散々イビり、そして俺が責め殺した教官。

その教官は、俺が殺したときのまま…身体がぐちゃぐちゃになったまま、そこに立って、飛び出した目玉で俺を睨み付けていた。

職業柄、この程度で怯える俺ではないはずだった。

それなのに、俺はそのグロテスクな残骸に怯えた。

あまりの恐怖に、息を呑んだ。

そのとき、俺は気がついた。

俺が着ているのは、いつもの真っ黒のゴスロリ服ではなかった。

制服だ。

帝国騎士官学校の白い制服。

俺は教官の遺骸よりも、その制服に吐き気を催した。

教官の遺骸。こちらを見て馬鹿にしたように笑うクラスメイト。

それらに耐えられなくなって、俺は教室を飛び出した。

この時点で、これは夢だと気がつけば良かった。

それなのに、気がつけなかった。

これが夢なのか、現実なのか、考えることすら出来ないほどに恐ろしかった。

この俺が、ルレイア・ティシェリーが、ルルシーと引き離されること以外の何かを恐れるなんて。

廊下に出ると、そこも妙にリアルだった。

しかも、廊下には、多くの人が立っていた。

誰もが、腹や首から血を流していた。

この人達は一体誰なのか。考えて、そして、思い付いた。

今まで俺が…殺してきた人々だ。

名前も知らない、顔もまともに見たことがない…でも、俺が殺した人々。

その中には、見覚えのある人物もいた。

『厭世の孤塔』の首領がいた。

『シュレディンガーの猫』のXもいた。

憎々しげに俺を睨む、カセイ・リーシュエンタールもいた。

少し考えれば、カセイが生きて、故郷である箱庭帝国にいることは分かるはずだった。

でも、俺はカセイの姿を見て、あぁ、この人は俺が殺したんだと思った。

殺しかけたのは事実なのだから、あながち間違ってはいないのかもしれないが。

他にも、ローゼリア・ベルガモット元女王や。

クリュセイス家のゼフィランシアや、ミルーダ。

帝国騎士団八番隊隊長のウィルヘルミナ。

爆弾立て籠り犯のリーフリルや、アシスファルト帝国のシャリヤもいた。

女性解放運動をしていたルシアナや、帝国騎士団四番隊副隊長のシャルロッテもいた。

何故かエリュシアもいて、エリュシアの傍らには、彼女を守るようにフランベルジュ・ティターニアが立っていた。

ランドエルス騎士官学校の、エルスキーやアシベル、ティモニーもいた。

ミューリアには、片腕がなかった。

ユーシャの遺体は裸だった。

憲兵局の大将軍、ディルク・フォルカーティンの生首も転がっていた。

『セント・ニュクス』のグリーシュの亡骸と、『愛国清上会』にいた人々までもが、廊下に立って、俺を睨んでいた。

王族の連中も、ウィルヘルミナも、俺のハーレム会員達も、ランドエルス騎士官学校の連中も、死んではいない。

シャルロッテなんてハーレム会員ですらないし、ディルクを殺したのは俺じゃなくてルアリスだ。

だから、彼らまで俺を睨んでいるのはおかしい。

そんなこと、少し考えれば分かるはずだ。

それなのに、俺は彼らの姿を見て、この人達も俺が殺したんだと思った。

俺がこの人達を不幸にした。だから、この人達は俺を憎んでいるのだと。
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