僕の10月14日
「そういえば、お母さんには何か質問したの?」

「うん、した。」

「何を質問したの?」

「お父さんと、どうして結婚に至ったのか聞いてみた。」

「わー、今までと違ってお母さん困ってなかった?」

「お母さん、この子ったら何を聞くのよ~、って顔してた。お父さんはお母さんのお兄さんの友達としか聞いていなかったから、ちゃんと聞いてみたかったの。お母さん、丁寧に答えてくれた。」

「へー。」

「お父さんはお母さんのお兄さんの友達で、お父さんとお兄さんが中学生、お母さんは3つ下だったから小学生の頃からお父さんは良く家に遊びに来てたんだって。それでお母さんが高校生の時数学が苦手で、お兄さんも不得意だったからしょっちゅう遊びに来ていたお父さんが教えてくれることになったんだって。」

「それで付き合い始めたの?」

「ううん。お母さんが大学に入ってそれからは会わなくなっちゃって、お兄さんが結婚することになってその結婚式で10年ぶりに再会。お母さん28歳、お父さん31歳。ちょうどいい年ごろだったし、懐かしさから話が弾んで、そこから付き合ってそれで結婚したんだって。」

「へー、なんかいいね。」

「私ね、お母さんのお兄さんに会ったことないの。正確に言うと私が生まれて直ぐには会っているらしいけど、その後事故で亡くなってしまったから、私は覚えていないの。」

「そうか・・・生きていればお父さんの面白い話聞けたかもしれないね。」

「ホント。きっと学生時代の私の知らないお父さんが知れたかもしれない。」

「でも、なんかお父さんとお母さんの歴史が知れて良かったね。」

「うん。なんか堅物だとおもっていたお母さんが急にかわいく見えて、女なんだと感じてドキドキしちゃった。」

「華菜ちゃんの知らないお母さんの顔だったんだね・・・また何か質問したらいいよ。」

「そうね。・・・あのね、その後お母さんが凄いこと言ったの。華菜、あなた誰か好きな人出来たの?って・・・驚いちゃって・・・」

「えっ? なんて答えたの?」

「なんでそんなこと聞くの? って質問を質問で答えちゃった。そうしたら、お母さんに急にそんなこと聞くからよ、って・・・お母さん勘いいよね。だから、そうみたいって答えちゃった・・・」

「そ、そうなんだ。」

「良かった?」

「ああ、嬉しいよ。」

「ホント? 」

「なんだよ。そう感じてなかった?」

「だって・・・まだ知り合って間もないし・・・ちゃんと言われていないし・・・」

「・・・ハズイだろ・・・今度言うね。どこかのタイミングで・・・」

「わかった。楽しみにしてる。」

「僕だってちゃんと言われていないよな。」

「そう・・・今のは殆ど告白だと思うけど・・・でも、私もどこかのタイミングでちゃんと言う。」

「わかった。楽しみにしてる。・・・ねえ、聞きたいことあって、今日絶対聞こうと思ってたことがある。・・・あのさ、華菜ちゃんは何の花が好き?」

「花? 私は、コスモスが好きなの。」

「コスモスって秋咲くんだよね。今はまだ咲いていないよね?」

「そうね。9月くらいからかな・・・」

「長野にコスモス街道があるの知ってる? バイト先の人から聞いたことがあって、綺麗らしいんだ。僕の怪我が治って華菜ちゃんが出かけられるようになったら、一緒に行こうよ。」

「行ってみたい・・・何キロもずっと道沿いにコスモスが咲いているって聞いたことがある。」

「いつかバイクで行ってみたいと思っていたんだ。」

「バイクか・・・乗ったことない・・・風を切ってきもちよさそう・・・これも退院したらやりたいことに入れなくっちゃ・・・」

「絶対に行こうね。」

華菜ちゃんは目を閉じて微笑みうなずいた。きっと、また妄想していると僕は彼女の顔を微笑みながら見た。


「ねぇ、コスモスの花の中で何色が好き?」
華菜ちゃんが逆に僕に質問してきた。

「えっ・・・ピンクかな。」

「そっか・・・でもそこは白じゃなきゃ・・・」

華菜ちゃんはちょっと寂しそうな顔をした。僕はドッキリした。

ー まずいこと言っちゃったのかな・・・
― コスモスに白なんかあったっけ・・・

「白じゃなきゃダメなのよ・・・今日はここまで。また明日ね。」

「ねえ、なんで白なの? 」

「フフフ、ナイショ・・・」

華菜ちゃんは手を振って戻って行った。

― おーい・・・なんで、白じゃなきゃいけないのさ・・・
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