ティラミスよりも甘く
「いつもありがとう……陽翔」
掠れた声に潤いが戻った百子は、感謝の意を伝え、陽翔の頬に手を触れ、唇に触れるだけの口づけをした。数十秒微動だにしなかった百子に、陽翔はすっかり驚いていたが、百子のされるがままになっている。汗ばんでしっとりした体が密着し、互いの早くなった鼓動を、唇の柔らかい感触をしばし味わっていた二人だが、どちらともなく唇を離した。
「陽翔、その……気持ちよかった……よ」
百子がもじもじとして感想を伝えると、陽翔は満足そうに唇を歪める。
「どうやら俺は百子にティラミスをちゃんとあげれたみたいだな」
陽翔の言葉に、百子は首を傾げてしまう。ティラミスは先程食べたばかりであり、その話が出てくる理由が検討もつかないのだ。そんな百子の反応を知っていたのか、陽翔は目を細めて答えた。
「ティラミスってな、直訳すると『私を上に持ち上げて』って意味らしい。つまり私を元気づけてってことだ」
陽翔の言葉に、百子はますます意味が分からなくなってしまい、探るように陽翔と目を合わせる。すると彼は人の悪い笑みを浮かべ、百子の耳元でゆっくりと囁いた。
「だが夜になったら意味が違うらしくてな……意訳すると『私を天国に連れて行って』ということらしいぞ」
百子は暫し瞬きをしていたが、その後瞬時にリンゴもかくやというほど顔を赤らめた。
「……え? じゃあ天国ってそういうこと?! 今日の陽翔がしつこかったのってもしかして!」
「そういうことだ。さっき出したティラミスはほんのオードブルに過ぎない。メインは百子に決まってるだろ?」
ニヤリとして首肯した陽翔に、百子は口を戦慄かせるだけで、そこから言葉は出て来なかった。先程の愛の夜が頭の中でループ再生されてしまい、羞恥でどうにかなりそうだったのだ。
「イタリアではティラミスは夜にしか出さない店もあるらしい。ティラミスの原料には卵と少しの酒があって、こいつは強壮剤にもなったとか聞いたな。要はティラミス食って精をつけろってことか。そうなると直訳の意味の根拠にもなりそうだよな」
百子は自分の好きなスイーツが、まさか性的な意味も含んでいたとは思わずに目を白黒させる。これでは意味を知る前には戻れない。ティラミスを目撃する度に、陽翔との愛の夜を思い出してしまうこと請け合いだ。
「そんな意味があったなんて……そんなこと言われたら、いつもみたいにティラミスを見れなくなりそう」
「別にいいじゃねえか。あ、でもティラミスを見て顔を赤くするのは、俺以外の人にするのは禁止な」
ティラミスを見て照れる顔を見るのは俺だけで十分だと付け加えた陽翔は、未だに顔を首まで赤くしている百子に、そっと口づけを落としたのだった。
~ティラミスよりも甘く(了)~
掠れた声に潤いが戻った百子は、感謝の意を伝え、陽翔の頬に手を触れ、唇に触れるだけの口づけをした。数十秒微動だにしなかった百子に、陽翔はすっかり驚いていたが、百子のされるがままになっている。汗ばんでしっとりした体が密着し、互いの早くなった鼓動を、唇の柔らかい感触をしばし味わっていた二人だが、どちらともなく唇を離した。
「陽翔、その……気持ちよかった……よ」
百子がもじもじとして感想を伝えると、陽翔は満足そうに唇を歪める。
「どうやら俺は百子にティラミスをちゃんとあげれたみたいだな」
陽翔の言葉に、百子は首を傾げてしまう。ティラミスは先程食べたばかりであり、その話が出てくる理由が検討もつかないのだ。そんな百子の反応を知っていたのか、陽翔は目を細めて答えた。
「ティラミスってな、直訳すると『私を上に持ち上げて』って意味らしい。つまり私を元気づけてってことだ」
陽翔の言葉に、百子はますます意味が分からなくなってしまい、探るように陽翔と目を合わせる。すると彼は人の悪い笑みを浮かべ、百子の耳元でゆっくりと囁いた。
「だが夜になったら意味が違うらしくてな……意訳すると『私を天国に連れて行って』ということらしいぞ」
百子は暫し瞬きをしていたが、その後瞬時にリンゴもかくやというほど顔を赤らめた。
「……え? じゃあ天国ってそういうこと?! 今日の陽翔がしつこかったのってもしかして!」
「そういうことだ。さっき出したティラミスはほんのオードブルに過ぎない。メインは百子に決まってるだろ?」
ニヤリとして首肯した陽翔に、百子は口を戦慄かせるだけで、そこから言葉は出て来なかった。先程の愛の夜が頭の中でループ再生されてしまい、羞恥でどうにかなりそうだったのだ。
「イタリアではティラミスは夜にしか出さない店もあるらしい。ティラミスの原料には卵と少しの酒があって、こいつは強壮剤にもなったとか聞いたな。要はティラミス食って精をつけろってことか。そうなると直訳の意味の根拠にもなりそうだよな」
百子は自分の好きなスイーツが、まさか性的な意味も含んでいたとは思わずに目を白黒させる。これでは意味を知る前には戻れない。ティラミスを目撃する度に、陽翔との愛の夜を思い出してしまうこと請け合いだ。
「そんな意味があったなんて……そんなこと言われたら、いつもみたいにティラミスを見れなくなりそう」
「別にいいじゃねえか。あ、でもティラミスを見て顔を赤くするのは、俺以外の人にするのは禁止な」
ティラミスを見て照れる顔を見るのは俺だけで十分だと付け加えた陽翔は、未だに顔を首まで赤くしている百子に、そっと口づけを落としたのだった。
~ティラミスよりも甘く(了)~


