一輪のバラード
「可愛いですね。ダックスですね。」
「はい、"マル"っていうんです。甘えん坊なのに、毎日お留守番させちゃってるので、早く帰ってあげたくて。」
「それは、早く帰ってあげなくてはいけないですね。」
すると、樋井さんは羽織っているジャケットのポケットからスマホを取り出し、「それなら、LINE交換は許していただけますか?」と言い、わたしたちはLINEを交換した。
「アイコンもワンちゃんなんですね。」
「はい、マルは大切な家族ですから。」
「犬も立派な家族ですもんね。」
「はい。マルはわたしにとって唯一の家族なんです。だから、大切にしてあげたくて。」
「唯一の?」
樋井さんが疑問を抱くような言い方をしたので、わたしは「わたし、両親と弟を6年前に事故で亡くしてるんです。」と話した。
「そうだったんですね、、、。」
「そんな時に出会ったのが、保護犬のマルでした。マルを見た瞬間、あ、この子はうちに来る子だって、不思議と思っちゃって。それで連れて帰って来ちゃいました。」
「きっと、出会う運命だったんですね。」
「そうだったんだと思います。それで、うちの一番近くのアイネスさんの中にペットショップが入ってるので、よくそこで犬用品を買わせていただいてるんです。」
「なるほど、そうゆうことだったんですね。」
すると、樋井さんは後ろポケットから長財布を取り出すと、わたしに一枚のカードを差し出した。
「良かったら、どうぞ。使ってください。」
わたしはそれを受け取り見てみると、そのカードには"特別優待カード"と書かれていた。
「これは何度でも使えるカードです。会計時に出せば、30%引きになります。」
「え、30%?!貰っちゃっていいんですか?!」
「はい、これを渡すのは特別な方だけですから。」
そう言うと、樋井さんは微笑み「是非使ってください。」と言ったのだった。