一輪のバラード

「んー、確かに目が合いましたけど、偶然じゃないですかね?」

わたしがそう言うと、樋井さんは「いえ、颯は確実にひかりさん狙いです。颯は、桃華さんみたいなタイプが苦手ですからね。年齢まで偽って、何のメリットがあるんですかね。」と言った。

「え、桃華が年齢偽ってるって、どうして分かったんですか?」
「僕らの共通の知人が桃華さんと同級生で33歳なんです。それなのに、28歳はおかしいじゃないですか。」
「分かりませんよ〜?もしかしたら、若返りの薬飲んできたのかもしれないじゃないですか。」

わたしの言葉にクスクス笑う樋井さん。

「ひかりさん、面白いですね。話しやすいですし、ひかりさんモテるでしょう?」
「そんなことないですよ。わたし、男運悪いんです。わたしなんかより、樋井さんの方が女性に困ったことないくらい、たくさんの女性に言い寄られてるんじゃないですか?」
「僕は仕事しかして来てないですからね。いつから彼女がいないか覚えてないくらいですよ。」
「本当ですか〜?」
「本当です。ひかりさん、宜しかったらこのあと2人で抜けませんか?もっとひかりさんとお話がしたいです。」

樋井さんにそう誘われたが、わたしは「あー、ごめんなさい。わたし、このあとすぐに帰らないといけないんですよ。」と言った。

「ご都合悪いですか?」
「家で家族が待ってるので。」
「家族。ご実家にお住まいなんですか?」
「いえ、そうじゃなくて、わたしの家族は犬です。」
「あぁ、ワンちゃん!」

わたしはバッグからスマホを取り出すと、待ち受け画面にしているマルの画像を樋井さんに見せた。

< 10 / 77 >

この作品をシェア

pagetop