訳アリママですが、敏腕パイロットに息子ごと深愛を注がれています。
プロローグ
あの夜のことは未だに忘れられない。
今でも時折思い出すけれど、夢だったんじゃないだろうかと錯覚しそうになる。
「あまりじっと見ないで……」
「どうして? こんなに綺麗なのに」
自分でも知らなかった自分を暴かれていくようで、少しだけ怖くもあった。
ぎゅっと目を瞑っていると、額に優しく口付けが落とされる。
「嫌ならやめる。今ならやめてあげられる」
「……っ」
泣きそうになりながらふるふると首を横に振ると、彼はふっと笑みをこぼしていた。
優しく頬を撫で、ちゅ、ちゅ、と全身に口付けが降り注ぐ。それを享受するだけで必死だった。
「もう止まれないから」
「…………あ、」
指で、舌で、優しく甘く時に激しくなぞられる。
二人の吐息が混ざり合い、重なって溶け合う。
遠目から見ているだけだった憧れの人とこうしているなんて、初めて会った時は思いもよらなかった。
一夜限りの関係でもいい、遊ばれただけでも構わない。
それでも今は、今だけはこの夢のようなひとときに浸っていたい。
――あなたが好き。
奥を突かれる度に何度も思った。あられも無い喘ぎ声と共に何度叫びたくなったかわからない。
だけど必死でその二文字だけは封印した。
彼が自分のことなんて好きになるはずがないのだから。
「……かわいい、陽鞠」
「っ、永翔さ……んっ」
名前を呼ぶ前に唇を塞がれる。
何度しても唇がとろけそうになる。
今でも忘れ去ることはできない。
後にも先にも、心から愛した人はただ一人だった。
< 1 / 92 >