訳アリママですが、敏腕パイロットに息子ごと深愛を注がれています。
一、決死の逃亡
「まま、ひこーきのる?」
「うん、乗るよ。楽しみだね」
「ひこーきのる!」
二歳になる最愛の息子・叶空の笑顔を見ていると、とても癒される。
これから不安なことばかりだが、叶空のために頑張らなければならないと奮い立つ思いだった。
(何があっても叶空だけは守らなきゃ……)
徐々に浮遊する機内の中、陽鞠は初めての飛行機に興奮する愛息子を見つめながら祈るばかりだった。
叶空と何事もなく暮らせますように、と。
「この度はRALをご利用くださり、誠にありがとうございます。快適な空の旅をお楽しみくださいませ」
このアナウンスをするCAは陽鞠の大学時代からの親友・芽衣だ。
芽衣は陽鞠と叶空に向かってニコッと微笑み、アイコンタクトを送る。
陽鞠は口パクで「ありがとう」とお礼を言った。
RALは国内有数の財閥グループ・六条財閥が経営する航空会社だ。
来月から陽鞠の職場になり、グランドスタッフとして働くことが決まっている。航空券だけでなく新しい職場まで紹介してくれた芽衣には、頭が上がらない。
GSとして働くのは三年ぶりとなる。
結婚を機に退職し、そこからまともに働いていなかったので正直不安が大きい。
しかも転職先は大手のRALだ。育児との両立ができるのかどうかもわからないが、やるしかなかった。
全ては愛する息子のためなのだ。