遣らずの雨 上
前よりも日焼けした肌が健康的な
相良さんと偶々廊下で会い、
その爽やかさとは対照に笑顔が出ない
私を彼がそっと覗き込んだ


「‥そんな日もありますよ。
 相良さんはいつも元気ですよね?
 羨ましいです。」


『好きな子に仕事中会えたら
 元気になるだろ?』


「な、何言ってるんですか。
 うわっ!やめてくださいよ。」


両手でわしゃわしゃと頭をぐちゃぐちゃにされ、そのくだらなさに何故か
笑えてしまった。


さっきまで落ちていた気持ちを
こんなことだけで持ち上げることが
出来るのも相良さんの魅力なのかも
しれないな‥‥‥。


『新名さん、遊んでる余裕があるなんて
 素敵ね?』


宮川さん‥‥‥


いつからそこに居たのか、酒向さんと
宮川さんの視線に、あわてて髪の毛を
片手で整える。


『お疲れ様です。違いますよ。
 僕が仕事中の彼女に構ってた
 だけなので、叱らないでやって
 ください。それじゃあまたね、
 新名ちゃん。』


「は、はい、お疲れ様です。
 ほ、保管庫に行ってきます‥‥。」


酒向さんの視線に何故か目が合わせ
られず頭だけ下げると、2人に背を向け
保管庫の方へと向かった。


せっかく気持ちが少し軽くなったのに、
改めて2人が並んだ姿を見るのはとても
ツラかったのだ。


「はぁ‥‥」


資料室の明かりを付けて、順番に
それを片付けていくと、一昨年の
資料で気になるものを見つけて、
座り込んでファイルを開いた。


あ‥‥これ、一昨日行った路面店が
オープンした時のものだ‥‥。


当時の雑誌掲載された記事や、
ホームページ、WEBデザインなどが
沢山載っている‥‥


ガチャ


えっ?


誰かが入ってきたんだろうとは
分かったけれど、保管庫の奥で
座り込んで見てるのがバレるのは
恥ずかしくて急いで立ち上がると、
ファイルを落としてしまい、中の
資料が床に落ちてしまった


『大丈夫か?』


ドクン


どうしてここに酒向さんが来たのかは
分からないけれど、出来れば今
会いたくなかったと思う人との
2人きりの空間はツラく逃げ出したく
なるような気持ちになる


「す、すみませ‥‥すぐ戻して出ます。
 大丈夫ですから。」


落としたファイルの中身を拾い集め
ると、一緒に拾ってくれた酒向さんの
手に触れてしまい、慌ててそれから
手を離そうとしたのにそのまま手を
掴まれてしまった。


「ッ‥‥離してください。」


『何かあった?
 さっきも顔色が悪かったけど、
 体調がツラかったりしたら』


「へ、平気ですし、こんなところを
 誰かに‥‥宮川さんに見られたら
 嫌です。」
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