資格マニアの私が飛んだら、なぜか隣にこどもと王子様が寝てました
Skill 4
(……重い……)
慣れない重みに戸惑って目が覚めたのに、なぜか既視感に襲われる。
「おはよう。俺の妃」
甘ったるく、現代日本ではそうそう言われない挨拶をされ、ベッドの上でそっと抱き寄せられた。
「……ユーリ」
「また邪魔をされたな。今回は、本当に」
言っておいて自分で照れたんだろう。
少し雑に私の頭を撫でた後、今度は丁寧に梳くように髪を整えてくれた。
「ノア……」
いつかみたいに、川の字状態だ。
私とユーリの間にすっぽり収まっているノアくんは、まだすやすやと眠っている。
(そっか、あの後……)
あの後、私の勘違いじゃなければ、確かにそんな雰囲気になったと思う。
ジルの制止を振り切ってノアくんが乗り込んできたことで、キスが中断されたのも本当だ。
「……そうね」
でも、もしも二人が部屋に来なくても、きっとユーリは最後までしなかったんじゃないかな。
何となくそんな気がしたけど、わざわざ否定することでもない。
それに私は、それをちょっと寂しく思ってしまってるんだと思う。
「とにかく、俺がいない時にもうエインに会うな。何を企んでいるのか知らないが、お前には危ない」
その言い方からして、基本的にはユーリはエインを信用している。
それがもっとエインに伝われば、少し変わるのかな。
「言葉どおりのような気もするわ。悪意はなく、単純に私と会う為だけに、状況を利用しているのかも」
「それならそれで問題だ。俺の公務中に逢瀬など、絶対にさせない」
「……しないわよ……。と言うか、ユーリだって来なかったじゃない」
拗ねたわけじゃない。
元々ユーリとエナがそうだっただけかもしれないけれど、これまでほとんど訪ねてきてくれなかった。
「俺がいない方が、のんびりできていいと思っただけだ。とは言え、ノアを素性の分からない女に預けておくわけにもいかないから、監視はさせていた。必要ないと思ってから……好きだと自覚してからは、余計に遠慮していた。ノアといる時のお前が、一番自然だったから」
「……今の私は……? 」
作り物じゃないと言えないのが悔しい。
このファンタジー設定のせいで、何だか芝居がかった口調になっているのも、実は自覚している。
「英菜。俺の妻だ」
発音もまったく同じ。
当たり前だけど、漢字なんてユーリが知るはずもない。
「……うん……」
それでも私には、都合よく私の名だと、そう聞こえた。
「公にはできないが、二人でやり直すのもいいかもしれないな。式も、初夜も」
「……しょ……。それはもう、私にとっては初でしかないわね。その前に、いろいろ他にもやり直すことがありそうだけど。デ、デートからとか」
寝ているノアくんを気遣ってか、小声で話すユーリの吐息がくすぐったい。
さりげなく身を捩ったつもりだったけど、バレたのか許してもらえなかった。
「それは、本当に初めてだな。お前さえよければ、全部最初から始めたい。……まあ、お前に記憶がある分の後戻りは難しいかもしれないが」
「後戻り? 」
ユーリとエナのことで私が覚えていることなんて、ゼロだ。
ここでボロを出さずに生活するうえで、ものすごく不便だと思っていたけど、結果的にそれで幸運だった。
「こういうことだ」
唇が重なったと知った時には既に離れ、また次を求められる。
「……ちょっと……」
ノアくんが起きる。
ヒヤヒヤしてノアくんの様子を確かめようと下を向こうとしたのを、ユーリの長い指に阻まれてしまった。
「いい子で寝ている」
「だ、だから、せっかく寝てるのに起こしちゃ……」
ダメだ。
これは、よろしくない。
朝、子どもがいつ起きても仕方ない状況で、しかも間に挟んでこんなこと――……。
「!! あ」
「……………」
「……!! お、おはよう。ノア」
急にぴょこんと起き上がったノアくんは、無意識に――そう、きっと無意識――バンザイをして、ユーリの下顎にクリティカルヒットを食らわした。
「…… “あ” じゃない。どうしたんだ、ノア。何で起きた」
「朝だからよ。誰だって頭上で話されたら、どうもしなくても起きるわ」
「後半はほぼ話してない。音は漏れたかもしれないが」
「な、何言って……」
幸い、ユーリの発言はノアくんには聞こえなかったらしい。
と言うより、彼の興味は他にあったようで。
「ん」
起きた勢いのままベッドから下りると、ドアの前までとことこ歩き。
「………………はぁ。お前は出るな。こら、ノアもだ。母様の方へ行ってろ」
父様の盛大な溜息を聞くと、にこにこと私の方へ戻ってきた。