資格マニアの私が飛んだら、なぜか隣にこどもと王子様が寝てました
「つまり、姿は元のエナ様のもの。その中に、まったく別人の魂が入っているのですね。うん、それしかないと思ってたけど、やっぱりそうだったんだ」
にこにこと手を合わせて喜ぶエインを見て、思わずノアくんの手を握る。
「やだなぁ。そんな顔しないでください。僕が他の人にバラしたりとか、まさか断罪なんてするはずもない。だって、僕は貴女のことが大好きなんですから。もしもレックスがそうするつもりなら、この場で殺して貴女を守って差し上げます」
「さすがに、王子様に無抵抗で殺されるほど弱くない。……どういうつもりだ、ユーリ。元のエナ以上に信用できない女を王妃にして、何かあったらどうする。王となる男がミイラにでもなるつもりか」
「どうもこうもない。受け容れるしかない婚姻が、本当のものになっただけのことだ」
各々の意見を聞く私の目も耳もぼんやりしているのに、ノアくんに触れた部分だけ感覚を鮮明に味わいたがる。
温かくて、ちょっともちっとしてふわっともして。
母だと信頼しきって、何も疑うことなく繋がれていてくれるノアくん。
私は、彼を騙しているんだ。
(……そんなの、最初から分かってた。覚悟だって、とっくにしてた)
いつか、私はここから消える。
もう何度も、自分にもユーリにだって言い聞かせてきた。
――なのに、いざ終わると思うと。
「……っ、ノアく……」
ノアくんが泣いてる。
それなのに、どうして。
「……これが答え。その他に何が要る」
どうして私の前に出て、両手を広げて守ってくれるの。
「ノア……ノアくん。いいの。もう、いいんだよ」
側に屈んて抱っこしようとしたけど、首を振って断られてしまう。
全部察して嫌になったのかと思ったけれど、そうじゃなくて。
頑なにその場から動いてくれないのを見て、とても耐えられなかった。
「……エナ」
涙が止まるわけないじゃない。
そりゃあ、私が産んだわけじゃない。
育てたとも言えない。
だから、どれだけ自分勝手であるかは、もちろん承知している。
「……もう少し、ここにいたい。ダメだって分かってるけど、でも、どうしても……っ」
「俺たちにとってはダメじゃない。……ここにいろと言った。だから、いろ」
ダメだ。
正解は一つしかなく、それも明白だった。
私はこの世界に仕方なくいて、いつかその日がくれば元の世界に戻る。
それが当然で、最初から決まってること――……。
「ははしゃ」
ああ、やっとノアくんの手が伸びてきた。
抱き上げて、ユーリに渡して。
これからどうなるのか分かっているのに、先は見えない。
このまま処分されてしまったら、私は元の生活に戻れるんだろうか。
「ん」
そっと、ぽよっとした指が私の涙を拭う。
ベチャベチャになった自分の頬はお構いなしだったから、どうにか笑って私がノアくんの頬を袖で拭いた。
(……もうダメだ。無理だって、認めるしかできない)
エナから恨まれて当然。
そうじゃなくても、何かのかたちで報いを受けるかもしれない。
そうであるべきだとも思うし、それ相応のことなのだ。
――許される限り、この世界で生きると決めるのなら。