資格マニアの私が飛んだら、なぜか隣にこどもと王子様が寝てました
・・・
幸い、私とノアくんは引き離されずに済んだ。
きゅっと抱き合う女子どもを引き剥がすには、彼らも抵抗があったのだろう。
「心配するな。誰にも手出しはさせない。それが弟だろうが友だろうが、同じことだ」
「……無理はしないで」
ベッドで眠るノアくんは、まだ不安なのかもしれない。
赤子のように小さく丸まって、寝息を立てている。
(……まさか、あの二人がユーリをどうこうするとは思えないけど……)
不安は消えなかった。
あの後、レックスは舌打ちして書庫を出てしまったし、エインも何かを思案するように唇に指を当て、そのくせ何も言わずに自室に戻ってしまった。
二人とも、一晩悩んで対応を決めるつもりなのかもしれない。
「……エナ」
いけないとは知りつつノアくんの頭を撫でる私に、今度はユーリの手が伸びる。
「早まらないでくれ。頼む……」
後ろからそっと抱かれて懇願され、俯くしかできない。
王子の妻を処刑台に送ることは、あの二人には無理かもしれない。
でも、それが王だったら――……。
「ここにいたいと言ってくれて、嬉しかったんだ。それとも、お前がここに残る理由はノアだけか……? 」
わざとそんなことを言ってくれたんだろうとどうにか笑うと、思いのほかユーリは真剣な表情をしている。
振り向いて確かめもせずに笑ってしまったことを後悔していると、ユーリの方が微笑んでくれた。
「……そんなことないよ。ユーリの側で、ノアくんといたい」
その優しさに応えることは、罪だろうか。
ううん、悪いことだとは分かっているけれど、それならいっそ、今からでも消えてしまえばいいのに。
「なら、いてくれれればいい。俺に、お前を愛させてほしい。ただ、それだけのことだ」
そう、至極シンプルなことだ。
ユーリに言われ、何かを身体に染み込ませるようにそっと――しかし、しっとりと触れられ、口づけられていくと、それが真実だと思える。
でも、それも触れ合っているこの時だけで、きっと部屋から出てしまえばこの魔法は解けてしまう。
そう思えるのは、ユーリ一人に背負わせてしまいそうで罪悪感を覚える、私のまともな部分のおかげだった。
「……そこにいろ」
控えめだったドアをノックする音が、痺れを切らしたように大きくなり、ユーリが舌打ちを飲み込む。
来訪者はどちらだろう。
一度無視されても諦めないことをみると、それがジルではないことは明らかだった。
「こんばんは、エナ様。夜更けに申し訳ありません。でも、朝になればレックスが押しかけてくるでしょうから。僕はその前に、貴女に話しておきたくて」
ユーリには目もくれず、エインは私とノアくんのいるベッドまで一直線に歩いてくる。
「俺の許可なく、エナに寄るなと言ったはずだ」
「僕に、そんな態度を取っていいの? 兄上のことは嫌いじゃないけど、僕が大好きなのはエナ様だよ」
「用件は何?エイン……と呼んでいいのかしら」
そうは言いながらも、本当に脅されるとはユーリも思っていなかったのだろう。
言葉を失った彼に代わって、私が続けた。
「もちろん。あのね、この前は断られちゃったんだけど」
――やっぱり、僕の為に脱いでいただけませんか。