資格マニアの私が飛んだら、なぜか隣にこどもと王子様が寝てました
とても色っぽくは聞こえない、まるで無邪気に「一緒に遊んで」とでも言うような笑顔と可愛らしい声だった。
「……エイン」
「あれ。兄上にも喜んでもらえると思ったんだけどなぁ」
真意を問いながら、それ以上言えば許さないと唸り声で名前を呼ばれたにも関わらず、エインは笑みを崩さない。
「……ユーリ……! 」
今度こそ、騒ぎになるとまずい。
小さく叫んでユーリの腕に触れると、振り払うことなくそっと私の手を包んでくれた。
「話は最後まで聞くものだよ。ね、エナ様。その後、怪我の具合はいかがですか。本当は、まだ痛むのでしょう? 」
「私だって、生身の人間よ。すぐには治らないけど、大丈夫……」
こういうところでも、この世界が現実だと感じるのだ。
傷が嘘みたいに癒えるわけもない。
言われたように傷跡は残るのだろうし、着替えやその他、ふとした時に痛み、ああそうだったと思い出す。
「僕なら、治せますよ。それも、ほんの一瞬で」
「何を……」
苛ついた表情を一変させ、ハッと思い当たったようにユーリが目を見開く。
「そう。国王が欲しがったのは、僕の治癒能力です。何と言うんでしょうね。白魔術……と言うには、何も唱えたつもりも願ったつもりもないんですが。ともかく、僕は母の力を受け継いでいる。僕も母同様わりと整った顔立ちをしていますが、僕は男ですから。能力以外のものは、求められずに済みそうです。さぞ、残念でしょう」
「…………」
治癒能力を持った、美しい女性。
しかも、立場は王とそれに仕えることもない侍女だ。
ギリ……と奥歯を噛んだのはユーリの方で、エインは無表情にそれを見つめている。
「失礼しました。昔話をしたいのではないんです。僕なら、貴女の傷を綺麗に消すことができる。ただ……ね。治すには、患部に触れる必要があるんですよ。この前だって、本当は貴女が僕を選んでくれたら、治して差し上げるつもりでした」
「……どうして、気が変わったの」
それでも、私はそれを拒んだ。
一度断られたのに、どうして無償で治してくれる気になったのか。
「だって、貴女の秘密を教えてくださったから。まあ、元々そのつもりはなかったんでしょうし、何ならレックスも聞いてしまいましたけど。僕、意外と約束は守るし、義理堅いんです」
――ね。だから、僕に触れさせて。
「背中なら軽いなんて、言うつもりはありません。男に肌に触れられることには変わりないし、何より僕が単なる治療のつもりじゃないから。でも、貴女には……いや、兄上にはどう? 別に、それ以上のおかしな真似はしない。ただ、背中に触れるだけだ。僕にその気があるというだけ。行為自体に差はない。それで、エナ様の傷は消えるんだよ」
先ほどの「脱いで」よりは、いくらか和らいだ表現だったのに、今の方がずっと艶めいた声で問われた。
いつもの雰囲気からは想像できないくらい色っぽく、エインが男性であることを、恐らく本人の思惑どおり感じているけれど、ドキドキなんてできない。
寧ろ、胸がざわざわして苦しくて、泣きたくなるこれは――……。
「……一瞬なんだろ。さっさと終わらせろ」
ユーリの歪んだ顔を見て、彼の答えを知ったからだ。