Thirty’s
第十二章 見直した横顔
新卒で社会に出てから、ずっと営業の現場一筋だった俺にとって、初めての本社スタッフ勤めの日々が始まった。


「私たちの業界の辛いところは、能動的に売り上げを伸ばすことが出来ないことなのよ。」


ある日のミ-ティングで、河北室長がこんなことを言い出した。


「どういうことですか?」


「物販にしてもサービスを売るにしても、価格を下げれば、それをお客様にアピールすることによって、取り敢えず利益のことは置いておいて、売り上げが伸びることは期待出来る。」


「はい。」


「でも私たちが明日から価格を半額にしたとして、それで『そうか、そんなに安いなら、引っ越しするか』って思い立つお客様なんてまず、いない。」


「そりゃそうですね。」


「私たちはあくまで引っ越しの必要に迫られてる人を相手にしか商売が出来ない。限られたパイを奪い合ってるのよ。だから、私たちが考えなきゃいけないのは、その中からどうやってお客様に選んでもらうか。そして、問い合わせをいただいたお客様と、どうやって確実に契約を取るのか。それを考えていかないと。」


「なるほど。」


(営業所では目の前のお客様だけを見ていればよかった。でも本社は違う。営業所全体の成約率を上げる方法を考えるのが、俺たちの仕事なんだ。)


そんなことを考えながら、俺は河北さんの言葉に頷く。
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