Thirty’s
最初のお客様宅に到着する。インターホンを押し、玄関先へ出て来られた奥様へ笑顔で頭を下げた。


「本日はお時間をいただき、ありがとうございます。」


俺自身、久々の営業訪問だが、やっぱりちゃんと自然と口から言葉が出る。


家の中へ案内されると、荷物を見るより先に部屋全体へ視線を走らせる。


階段の幅、廊下の長さ、家具の配置、大型家具はどこから搬出するか、玄関前にトラックは停められるのか・・・。


頭の中で、一つずつ確認していく。


その様子を唯は後ろからじっと見ていた。


「こちらの食器棚は、そのままお持ちになりますか?」


「はい。」


「冷蔵庫は新居でも一階ですか?」


「ええ。」


会話を続けながら、俺はメジャーを取り出して家具の寸法を測る。


唯は一言も口を挟まず、その一つひとつを真剣な表情でノートへ書き込んでいた。


訪問を終えて、再び車中の人になった俺たち。


唯が大きく息を吐いた。


「すごいね・・・。」


「何が?」


「荷物の数を数えて、料金を出すだけなのかと思ってた。」


思わず笑ってしまう。


「そんな簡単なら、誰でも出来る。」


「そうだよね。」


唯は苦笑した。


「お客様と話しながら、家の中も見て、家具も見て、搬出経路も見て。見積もりは、現場の作業を頭の中で一回やるようなもんだから。」


「なるほど……。」


唯は小さく呟くと、またメモへ視線を落とした。
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