Thirty’s
午後のお客様宅は、午前中よりも少し荷物の少ない、若いご夫婦の新居への引っ越しだった。


玄関先に立った唯は、一度深呼吸をすると、俺の方を見たけど、何も言わず、小さく頷くだけに留める。


「失礼します。本日は、お時間をいただき、ありがとうございます。」


緊張が伝わる声だった。でも、その挨拶にお客様は笑顔で応じて下さる。


「どうぞ。」


唯は家の中へ入ると、ノートを開きながら周囲を見回した。


(午前中と同じように・・・。)


そんなことを考えているのが、横から見ていて、手に取るように分かる。


「まず、お引っ越し日はご予定通りでよろしいでしょうか?」


「はい。」


「ありがとうございます。」


丁寧にメモを取りながら、今度は荷物へ目を向ける。


「こちらの本棚は、そのまま新居へお持ちになりますか?」


「はい。」


「こちらのテレビも?」


「お願いします。」


ここまでは順調だった・・・が、そのあと唯はふと黙り込んでしまう。次に何を確認すべきか、一瞬、頭が真っ白になってしまったのだろう。


その沈黙に気付いた奥様が、不思議そうな表情を浮かべている。


(・・・。)


チラリと唯が俺に視線を送って来る。SOSを出しているのはすぐにわかったが、俺は静かに頷いて見せただけだった。


(助けてくれないの?)


彼女の心の声が聞こえて来るようだったが、俺は何も言わない。その様子に諦めたように、前を向いた唯は


「申し訳ありません。」


そう言って、もう一度部屋全体を見回した。
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