Thirty’s
そして


「あの・・・新居の方はエレベーター付きのマンションでしょうか?」


ようやく次の質問を口にした。


「はい、そうです。」


「ありがとうございます。」


まだぎこちない。でも、会話はまた動き出した。


その後も、質問を忘れそうになっては資料を見返し、家具の寸法を測るにも手間取り、それでも唯は最後まで、お客様の前で笑顔だけは崩さなかった。


そして、最後に俺が見積もりの内容を確認し、訪問を終えた。


営業車へ戻ると、ドアが閉まるなり、唯は大きく息を吐いた。


「はぁ・・・。」


そのまま助手席に身体を預ける。


「よく頑張ったね。」


俺が笑顔で労うと


「ソウくんは本当に、私に優しくなくなった。」


唯はそう言って、膨れっ面になる。


「当たり前だろ。今の君は、もう昔の君とは違うんだから。」


「私たちが、彼氏彼女じゃなくなったから?」


「違う。君は専務、営業本部長。僕はその下の一社員に過ぎない。」


「でもさ、私、本当に今日初めてだったんだよ。いくら午前中、お手本を見せてもらったにしても、そんな簡単に出来るわけないじゃん!」


「そうだね。」


「だったら・・・。」


「それでも、何とかしなきゃならないのが、今の君の立場なんじゃないか?」


俺が決めつけるように言うと、言葉を失って、唯は俯く。
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