Thirty’s
そんなやり取りをしてから、俺も着替えようと事務所を出ると


「沖田、ちょっと。」


所長に呼び込まれた。


「なにか?」


「いや・・・今更なんだが、本当に専務に現場実習なんかさせていいのか?」


「どうしてです?」


「あんな箸より重い物を持ったことがなさそうなお嬢様に力仕事なんかさせて、万一ケガでもさせたら、大問題になりかねん。」


前所長の栄転に伴い、次長から昇格したばかりの所長は、いきなり厄介ごとを抱え込むのは御免というような表情で言って来る。


「そこまで、か弱くありませんよ。それにこれは専務自身が希望されたことなんですから、ご心配には及びません。」


「まぁそうなんだが・・・とにかく、事故だけはないようにな。あとくれぐれも、専務に失礼がないように、よろしく頼むぞ。」


「事故はいつだって起こしちゃいけないし、それに今日の彼女は専務じゃなくて、あくまで一本部スタッフ。みんなはそう思ってるんですから、そのように接するだけです。」


「沖田・・・。」


「じゃ、行って来ます。」


これ以上の問答は時間の無駄とばかりに、俺は所長室を出た。


着替えを済ませ、事務所に入ると、唯は既に待ち構えていた。


「おはようございます、沖田さん。どう、似合ってる?」


俺の顔を見ると、またもやモデルのようにターンして、作業服姿を見せて来るから


「正直、あまり。」


と言ってやると


「なにそれ、酷い。」


プッと膨れるから、


「沖田さん、厳しい。」


スタッフたちが笑い声を上げる。


「ということで、今日はお世話になります。改めて、ご紹介します。本社の御崎唯さんです。」


「御崎です。本日はよろしくお願いします。」


唯は一転、落ち着いた表情でみんなに一礼する。


「では、出発します。」


平山の声で、俺たちは動き出した。
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