Thirty’s
作業が進むにつれ、唯の額には汗が滲み始めていた。


慣れない軍手、慣れない安全靴。腕も足も思うように動かない。


それでも


「御崎さん、これお願い。」


と声が掛かるたびに


「はい!」


と返事をして走って行く。


そんな彼女の姿を見ていた平山が


「沖田さん。」


と呼び掛けて来る。


「うん?」


「御崎さん、本当にちゃんとやる気なんですね。本部の女性なんて、もっとお客様然と構えてるのかと思ってました。」


「当たり前だ。」


俺は少しだけ笑った。


「そうじゃなきゃ、連れて来ない。」


(そう、唯はただのお高くとまっているようなお嬢さまなんかじゃない・・・。)


付き合っていた頃だって、俺は彼女の言動から、特別なものを感じることはほとんどなかった。当時の唯はそういう女性だった。だからこそ、結果的には、そんな彼女のバックボ-ンというか出自を、もっと意識して付き合うべきだったんだろうな・・・。


ふと、そんな今更のことを考えてしまい、思わず苦笑いが浮かんでしまった。
< 120 / 238 >

この作品をシェア

pagetop