Thirty’s
やがてリビングに置かれた大型の食器棚の前で、全員の動きが止まった。


「これが今日一番だな。」


俺が呟くと


「俺たちで行きます。」


平山の声で、それぞれが持ち場に付く。


その時だった。


「私も手伝います。」


唯が一歩前へ出る、でも俺は首を横に振る。


「ダメだ。」


「どうして?」


「君が入ると、平山たちの動きが狂う。」


「じゃあ、私は何をすればいいの?」


このまま引き下がれないとばかりに言ってきた唯に


「じゃあ、玄関でドアを押さえて下さい。」


平山が宥めるように言って笑う。


「はい!」


顔を輝かした唯はすぐに走り出した。


「沖田さん。」


「わかってる。」


俺は頷くと、家具の周囲を見回した。搬出経路は狭い、角度を少しでも間違えれば壁を擦る。家具がゆっくりと玄関を抜けていく。その間、唯は黙ってドアを支え続けている。


やがて食器棚は、無事にトラックへ積み込まれた。


「よし!」


平山が手袋を叩きながら笑い、現場に少しだけ安堵の空気が流れる。


「御崎さん。」


平山が唯を呼ぶ。


「はい。」


「さっき、ドア押さえてくれて助かりました。」


「えっ・・・。」


「ドアをしっかり押さえてくれたから、安心して運べました。」


そう言って笑う。


「よかった・・・です。」


ホッとしたように答えた唯の表情は、まるでかつてのような少女の時に戻ったように輝いていた。


その笑顔を見て


(合格だよ、唯。)


俺は胸の中で、小さく呟いた。
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