Thirty’s
大臣以下の新陣容が固まり、新体制が動き出すと、中央官庁の当面の懸案事項は来年度の予算案の策定。私の所属する大臣官房はその作業の中核的存在であり、文字通りの暑い夏を過ごすことになるのだが、その中で国会対応がメインの担当である私たちは、比較的平穏な時間を過ごすことが出来る。
といっても定時で上がれるなんてことはないけど、20時くらいのまぁ穏当(?)な時間には帰れるようになる。だから、私も総一郎と平日、夕食を共にする機会がもう少し増えてもいいはずなんだけど、実際には思ったほどでもない。
「ねぇ加奈さん、今日はご飯食べて行きましょうよ。」
普段は係長と私を呼ぶことが多い茉莉が、加奈さんと甘えた声で呼びかけて来ると、大抵このパタ-ン。もちろん、その心は「ご馳走して下さい」だ。未だにキッチリとしたタテ社会、年功序列の官僚の世界では、上司、先輩からのお誘いも、以前に比べれば、随分減ったけど、そうそう無碍には出来ない。
そして、この日。私が憂鬱な表情を隠せないままに19時という比較的早い時間に、パソコンを閉じたのは、山本秘書官に誘われていたからだ。
このあまり得意でない大学の先輩からは、再会以来、事あるごとに「今度メシでも行こう」「今度はプライベートでな」といったセリフを投げ掛けられて来たのだが、実現の運びとなったことは一度もなく、私の中では完全に「別れ際のお約束の社交辞令」と認識されていた。ところが、数日前
「お待たせしたが、やっと約束を果たせそうだ。メシでも食いながら、大学時代の昔話でもしようぜ。」
と言われてしまい、断る理由も見いだせず、頷いてしまったのだ。
(どうせ実現しないって油断してた。こんなことなら、ちゃんと言われるたびにノ-って言っとくべきだった・・・。)
後悔先に立たず、私はひとつため息を吐くと、重い腰を上げた。
といっても定時で上がれるなんてことはないけど、20時くらいのまぁ穏当(?)な時間には帰れるようになる。だから、私も総一郎と平日、夕食を共にする機会がもう少し増えてもいいはずなんだけど、実際には思ったほどでもない。
「ねぇ加奈さん、今日はご飯食べて行きましょうよ。」
普段は係長と私を呼ぶことが多い茉莉が、加奈さんと甘えた声で呼びかけて来ると、大抵このパタ-ン。もちろん、その心は「ご馳走して下さい」だ。未だにキッチリとしたタテ社会、年功序列の官僚の世界では、上司、先輩からのお誘いも、以前に比べれば、随分減ったけど、そうそう無碍には出来ない。
そして、この日。私が憂鬱な表情を隠せないままに19時という比較的早い時間に、パソコンを閉じたのは、山本秘書官に誘われていたからだ。
このあまり得意でない大学の先輩からは、再会以来、事あるごとに「今度メシでも行こう」「今度はプライベートでな」といったセリフを投げ掛けられて来たのだが、実現の運びとなったことは一度もなく、私の中では完全に「別れ際のお約束の社交辞令」と認識されていた。ところが、数日前
「お待たせしたが、やっと約束を果たせそうだ。メシでも食いながら、大学時代の昔話でもしようぜ。」
と言われてしまい、断る理由も見いだせず、頷いてしまったのだ。
(どうせ実現しないって油断してた。こんなことなら、ちゃんと言われるたびにノ-って言っとくべきだった・・・。)
後悔先に立たず、私はひとつため息を吐くと、重い腰を上げた。