Thirty’s
私が正面玄関を出ると


「加奈!」


秘書官が車の前で手を振っている。その姿と、彼に手を振られて、名前呼びで出迎えられている私の姿は、当然、帰宅の途についている他の同僚たちの耳目を集めることになり、私は


(ちょ、ちょっと、何考えてるのよ・・・。)


慌てて、彼に駆け寄ると


「先輩、困ります。」


そう言って、彼に抗議の視線を送る。


「何が?」


「何がって・・・誤解されたら、どうするんですか?」


「誤解って?」


「それは・・・。」


思わず口ごもると


「加奈と誤解されるなら大歓迎だ。」


そう言って、先輩は笑ってる。本当に何考えてるのよと、腹が立って来たが


「さ、行こうぜ。乗ってくれよ。」


涼しい顔で先輩は、運転席に回る。その姿を思わず、睨んでしまった私は、でも結局は助手席に乗り込むしかない。


「これから行く所は、料理はもちろん、景色もなかなかのものだ。期待しててくれよ。」


そう言って、ニヤッと笑うと、エンジンをスタ-トさせる先輩。


これまでと、違う。


「加奈」と呼び捨てられ、助手席に座って、ふたりきりで夜の街を走っている・・・。


(人はこれを『デート』って呼ぶんだよ、ね・・・。)


今更ながら、そんなことを認めるしかなくなった自分の迂闊さに、思わず頭を抱えたくなる。


(総一郎、ごめん・・・。)


今は、心の中で詫びるしかなかった。
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