Thirty’s
気が付けば、私は自宅への道を歩いていた。役所を出て、電車に乗って、最寄り駅で降りて・・・ここまで帰って来たはずなのに、その実感がまるでない。


部屋の灯りが見えて来た、総一郎は帰って来てる。それは平日の私たちにとっては、ありふれた光景。でも今日は、彼はなんて言って、私を出迎えてくれるのだろう・・・?


鍵を開け、中に入る。


「ただいま。」


リビングに入ると、何やら物思いに耽る彼の姿。私の気配に、ハッとこちらを向くと


「ああ、お帰り。」


慌てたように立ち上がる。


「夕飯は?」


「食べてない。」


「僕もなんだ。じゃ、今から何か作るよ。」


「そんなこと、今はどうでもよくない?」


鋭い声が出てしまう。


「えっ?」


「今の私たちには、ご飯よりもっと大切な、話さなきゃいけないことがあるんじゃないの?」


そう言うと、総一郎はハッとした表情を浮かべる。


「昼間、山本さんと話したんだって?」


「彼から聞いたのか?」


「うん。」


「じゃ、何の話だったかも、聞いたんだろ?」


「たぶん。」


「たぶん?」


「山本さんが全てを話してくれたかどうかはわからない。だから、あなたの口からちゃんと聞きたいの。」


「話したというより・・・彼に一方的に言われたっていう方が正しい。」


「これからの私の人生に必要なのはあなたじゃなくて、俺だって言われたんだ?」


「・・・ああ。」


「それで、あなたはなんて答えたの?」


私は真っすぐに、総一郎を見る。
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