Thirty’s
ダメだ・・・昨夜の加奈とのやり取りが、どうしても頭から離れない。


でも、仕事を疎かにするわけにはいかない。昨日は山本さんとの一件のせいで、河北さんに心配を掛けてしまったばかりだというのに・・・。


全く、プライベ-トを引きずって、仕事に集中出来ないなんて、いい齢して恥ずかしい。


(しっかりしろ、俺。)


改めて気合を入れ直して臨んだ朝の部内ミ-ティングが終わり、専務室に顔を出すと、唯が部下から何やら報告を受けている。


「そうですか、わかりました。でもこのままでは、費用対効果がよく見えて来ませんから、とても専務として決裁することは出来ません。更なる検討をお願いします。」


年上の部下たちに敬語を使いながらも、厳しい表情と口調で指示を出す。


ダメ出しをされた連中が、すごすごと退散して行くと、俺に気付いた唯が


「あっ、沖田さん。おはよう、ちょっとそこで待ってて。」


と声を掛け、今度は秘書と打ち合わせを始める。


「ここのスケジュ-ル、なんとか動かせない?」


「先方に連絡してみますが、難しいかもしれません。」


「そこのところを何とかお願い。場合によっては、私が直接話すから。」


「かしこまりました。」


「あとね・・・。」


当たり前だけど、そこにはかつて俺に甘えていた頃の面影なんか、微塵も感じられない。まだ三十歳にもならない若さで、一つの企業の経営の一翼を担う彼女がいた。


そんな唯の姿を、俺はしばし、眺めることになった。
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