Thirty’s
『ごめん、今夜は帰らない。ひとりに、なりたいの。』


そのメッセ-ジを送ると、私はスマホの電源を落とした。連絡が取れなくなり、総一郎に心配を掛けることはわかっていたけど、でも今の私は、彼の声を聞いたり、メッセ-ジのやり取りすることが苦しかった。


ここは役所にほど近い、ビジネスホテル。もちろんシングルル-ム。神奈川の実家から通っていた頃は、終電を逃して、何度も利用したことがあったけど、東京で、彼と一緒に住むようになってからは、縁がなくなっていた(役所に泊まり込みになったことはあったけど)。


狭い部屋にひとり・・・フッとひとつ息をつくと、椅子に腰を下ろし、スマホをテーブルの上に置く。


千々に乱れる心を、懸命になだめながら、私は今日の仕事をこなした。早く帰って、総一郎とちゃんと話さなきゃ・・・それだけが頭にあった。


帰り間際、電話が鳴る。今日もか・・・思わず、表情をしかめた私は


(今日は絶対に相手にしない。)


心に決めて、受話器を取った。でも・・・聞こえて来た声は、私の予想に反していた。


「守衛室です。桜井係長に、面会の方が見えてます。」


面会?それもこんな時間に?どこかの政治家さんの秘書か誰かだろうか・・・?


とっさにそんなことを思ったが、その面会希望者の名前を聞いた時は、一瞬驚きのあまり、息が止まった。そして次の瞬間、私は脱兎の如くに部屋を飛び出していた。
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