Thirty’s
第十九章 お帰りが言えなくて
◇◇(悠視点)
(やっぱり、暑いなぁ・・・。)
思わず、空を見上げる。容赦ない太陽の光が、燦々と降り注ぐ中、私は久しぶりに横浜スタジアムにやって来た。今日はこれからここで、今年の夏の甲子園大会出場を掛けた、神奈川県予選決勝戦が行われる。
この前、ここに来た時、私は高校三年生だった。隣には由夏がいて、グラウンドには徹くんはもういなかったけど、沖田くんや塚原くんたちがいて、私たちは母校の勝利を祈って声を限りに声援を送ったものだ。
そして今、私の横にいるのは舞と翼。ふたりとも、初めて間近に見る野球場に目を輝かせている。ちなみに恵は、この暑さではまだ心配なので、実家の母と留守番。夫はスタジアムのどこかで、取材に走り回ってるはずだ。
スタンドに入ると、平日にも関わらず、大勢のOB・OGが陣取っている。私たちの頃は甲子園の常連校だった我が母校も、最近はすっかりご無沙汰。久しぶりの決勝進出にボルテ-ジが上がっている。
そう言えば、昨夜は徹くんも
「勝てば、四年ぶりの甲子園だ。力入るな。」
なんて言ってるから
「あなたは、応援じゃなくて取材で行くんでしょ?」
って、水を掛けてみると
「何言ってるんだ。それとこれとは話が別だ。」
なんて、真顔で言うから、これでちゃんと冷静に記事を書けるのか、思わず心配になってしまった。
もっとも、かく言う私も子供たちにねだられたのもあるけど、この暑さにめげずにここまでやって来たのだから、やっぱりそれなりに母校愛はあるんだろうね・・・。席に着くと、グラウンドでは後輩たちが、暑さにも負けず、元気に試合前の練習中。
「やっぱり明協高校のユニフォ-ムはカッコイイなぁ。」
翼は、昔のビデオを見てから、すっかりパパの雄姿とユニフォ-ム姿の虜になっていて
「僕は絶対パパとおんなじ、あのユニフォ-ムで甲子園に行くんだ!」
と改めて宣言。一方、舞は
「あのお姉ちゃんたち、可愛くて綺麗・・・。」
早くも華麗なダンスで、声援を送るチアリ-ダ-さんたちに目を奪われている。
「よし、翼が甲子園に出たら、私がスタンドから、ああやって応援してあげる。」
「本当?じゃ、僕頑張るよ。」
そんな無邪気な会話を交わしているふたりが微笑ましかったが、でももしそんなことになったら
「舞にあんな格好は、絶対にダメだ!」
って徹くんが騒ぎそうだな・・・なんて思ってしまった。
そんなこんなでプレ-ボ-ルを待っていると
「お義姉さん。」
と呼び掛けられた。聞き慣れたその声に振り向くと
「お久しぶり。」
唯ちゃんだ。
「あっ、唯ちゃんだ!」
「こんにちは。」
子供たちもパッと顔を輝かせる。なかなか会う機会はないけど、可愛がってくれる叔母さんが大好きなのだ。もっとも
「『叔母さん』って呼んだら、返事しないからね。」
と優しく釘は刺されてるけどね。
「居ても立ってもいられなかったから、仕事サボって来ちゃった。」
「そんな、大丈夫なの?」
「普段頑張ってるんだから、このくらいの我が儘は許してよ。」
そんな会話を交わしながら、フッと横を見た私は思わず、息を呑んだ。
「沖田くん・・・。」
「ご無沙汰。」
照れたようにそう言った沖田くんは
「今日は専務のお供で、一応仕事なんで。」
「そうなんだ・・・。」
「じゃ、お義姉さん。力の限り、後輩を応援しようね。じゃソウくん、行こう。」
「はい。じゃ、悠さん。また、あとで。」
そう言って、軽く会釈すると、沖田くんは唯ちゃんと並んで離れて行く。
(何、あれ・・・。)
私は、その後ろ姿を唖然として見ていた。それから、後輩たちには申し訳なかったんだけど、私は正直、試合どころではなくなってしまった。
(見てはいけないものを見てしまったってこと・・・?)
その思いで、いっぱいになってしまったから。
加奈と沖田くんがしっくりいっていないってことは、由夏から聞いていた。それで加奈が突然、彼女を訪れて来たのだそうだが
『まぁ愚痴も聞いてやったし、それなりにアドバイスもしたから、なんとか丸く収まると思うよ。』
由夏はそう言って、詳しいことは話してくれなかったし、その後も特に音沙汰がなかったから、すっかり安心していたんだけど・・・。
なんと言ってもショックだったのが、唯ちゃんの横に沖田くんがなんか、当たり前のようにいたことだ。話の様子では、同じ職場で働いてるようだったし、『ソウくん』って昔のように呼ばれて、彼も普通に受け入れたし・・・。
確かに付き合う前の高校時代から唯ちゃんは彼をそう呼んでたけど、でもやっぱり・・・。
ふたりが同じ職場って、偶然・・・なわけないよね。それで、沖田くんは、唯ちゃんの側に秘書のような形で、いつも付き従ってるってこと・・・?
そんなこんなと思いを馳せている内に、試合は母校の敗戦で幕を閉じてしまった。
ちゃんと、応援できなくて、ごめんなさい!
◇◇
参った、まさか悠さんと会うことになるなんて・・・。
彼女、変な顔をしてたよな。まぁ当然の反応なんだけど・・・。
『そんなんじゃないから。』
とちゃんと説明に行くべきだったかな?でも、それって、藪をつついて蛇を出しちゃうようなものだよな、きっと。
なんか、事態がどんどん悪い方へ、悪い方へと流れているような気が。このままじゃ・・・。
(やっぱり、暑いなぁ・・・。)
思わず、空を見上げる。容赦ない太陽の光が、燦々と降り注ぐ中、私は久しぶりに横浜スタジアムにやって来た。今日はこれからここで、今年の夏の甲子園大会出場を掛けた、神奈川県予選決勝戦が行われる。
この前、ここに来た時、私は高校三年生だった。隣には由夏がいて、グラウンドには徹くんはもういなかったけど、沖田くんや塚原くんたちがいて、私たちは母校の勝利を祈って声を限りに声援を送ったものだ。
そして今、私の横にいるのは舞と翼。ふたりとも、初めて間近に見る野球場に目を輝かせている。ちなみに恵は、この暑さではまだ心配なので、実家の母と留守番。夫はスタジアムのどこかで、取材に走り回ってるはずだ。
スタンドに入ると、平日にも関わらず、大勢のOB・OGが陣取っている。私たちの頃は甲子園の常連校だった我が母校も、最近はすっかりご無沙汰。久しぶりの決勝進出にボルテ-ジが上がっている。
そう言えば、昨夜は徹くんも
「勝てば、四年ぶりの甲子園だ。力入るな。」
なんて言ってるから
「あなたは、応援じゃなくて取材で行くんでしょ?」
って、水を掛けてみると
「何言ってるんだ。それとこれとは話が別だ。」
なんて、真顔で言うから、これでちゃんと冷静に記事を書けるのか、思わず心配になってしまった。
もっとも、かく言う私も子供たちにねだられたのもあるけど、この暑さにめげずにここまでやって来たのだから、やっぱりそれなりに母校愛はあるんだろうね・・・。席に着くと、グラウンドでは後輩たちが、暑さにも負けず、元気に試合前の練習中。
「やっぱり明協高校のユニフォ-ムはカッコイイなぁ。」
翼は、昔のビデオを見てから、すっかりパパの雄姿とユニフォ-ム姿の虜になっていて
「僕は絶対パパとおんなじ、あのユニフォ-ムで甲子園に行くんだ!」
と改めて宣言。一方、舞は
「あのお姉ちゃんたち、可愛くて綺麗・・・。」
早くも華麗なダンスで、声援を送るチアリ-ダ-さんたちに目を奪われている。
「よし、翼が甲子園に出たら、私がスタンドから、ああやって応援してあげる。」
「本当?じゃ、僕頑張るよ。」
そんな無邪気な会話を交わしているふたりが微笑ましかったが、でももしそんなことになったら
「舞にあんな格好は、絶対にダメだ!」
って徹くんが騒ぎそうだな・・・なんて思ってしまった。
そんなこんなでプレ-ボ-ルを待っていると
「お義姉さん。」
と呼び掛けられた。聞き慣れたその声に振り向くと
「お久しぶり。」
唯ちゃんだ。
「あっ、唯ちゃんだ!」
「こんにちは。」
子供たちもパッと顔を輝かせる。なかなか会う機会はないけど、可愛がってくれる叔母さんが大好きなのだ。もっとも
「『叔母さん』って呼んだら、返事しないからね。」
と優しく釘は刺されてるけどね。
「居ても立ってもいられなかったから、仕事サボって来ちゃった。」
「そんな、大丈夫なの?」
「普段頑張ってるんだから、このくらいの我が儘は許してよ。」
そんな会話を交わしながら、フッと横を見た私は思わず、息を呑んだ。
「沖田くん・・・。」
「ご無沙汰。」
照れたようにそう言った沖田くんは
「今日は専務のお供で、一応仕事なんで。」
「そうなんだ・・・。」
「じゃ、お義姉さん。力の限り、後輩を応援しようね。じゃソウくん、行こう。」
「はい。じゃ、悠さん。また、あとで。」
そう言って、軽く会釈すると、沖田くんは唯ちゃんと並んで離れて行く。
(何、あれ・・・。)
私は、その後ろ姿を唖然として見ていた。それから、後輩たちには申し訳なかったんだけど、私は正直、試合どころではなくなってしまった。
(見てはいけないものを見てしまったってこと・・・?)
その思いで、いっぱいになってしまったから。
加奈と沖田くんがしっくりいっていないってことは、由夏から聞いていた。それで加奈が突然、彼女を訪れて来たのだそうだが
『まぁ愚痴も聞いてやったし、それなりにアドバイスもしたから、なんとか丸く収まると思うよ。』
由夏はそう言って、詳しいことは話してくれなかったし、その後も特に音沙汰がなかったから、すっかり安心していたんだけど・・・。
なんと言ってもショックだったのが、唯ちゃんの横に沖田くんがなんか、当たり前のようにいたことだ。話の様子では、同じ職場で働いてるようだったし、『ソウくん』って昔のように呼ばれて、彼も普通に受け入れたし・・・。
確かに付き合う前の高校時代から唯ちゃんは彼をそう呼んでたけど、でもやっぱり・・・。
ふたりが同じ職場って、偶然・・・なわけないよね。それで、沖田くんは、唯ちゃんの側に秘書のような形で、いつも付き従ってるってこと・・・?
そんなこんなと思いを馳せている内に、試合は母校の敗戦で幕を閉じてしまった。
ちゃんと、応援できなくて、ごめんなさい!
◇◇
参った、まさか悠さんと会うことになるなんて・・・。
彼女、変な顔をしてたよな。まぁ当然の反応なんだけど・・・。
『そんなんじゃないから。』
とちゃんと説明に行くべきだったかな?でも、それって、藪をつついて蛇を出しちゃうようなものだよな、きっと。
なんか、事態がどんどん悪い方へ、悪い方へと流れているような気が。このままじゃ・・・。