Thirty’s
「そうか・・・。」


私の顔を見て、そう言った秘書官は


「結論が出てないってことは、取り敢えずこの前の俺のプレゼンはまだ落選してはいない。その認識でいいな?」


確認するように聞いて来る。それに対して、私は敢然とノ-と言うべき、なのに・・・実際にはイエスともノ-とも言えずに、沈黙してしまっていた。


「わかった。」


ひとつ頷いて、立ち上がった秘書官は


「大臣政務秘書官を退任することになった。」


と告げて来た。


「えっ?」


意外なことを言われて、驚く私に


「二年後の参院選に出馬する。」


秘書官は冷静な声で続けた。


「前からそんな話はあったんだが、先日、地元の親父の後援会から正式に出馬要請を受け、熟慮の末、ありがたくお受けすることにした。」


「そう、ですか・・・。」


「親父もまだ五十代、政治家としては若い。俺の出番はもう少し先のことだと思っていたが、せっかくのチャンスを棒に振るのは、やはり政治家を目指す者として、あってはならないことだと思う。そこでだ。」


「・・・。」


「正式な出馬表明の席で、君との婚約も発表したいと思っている。」


私を真っすぐに見て、そんな言葉を発した秘書官に、息を呑む。


「前にも話したが、国会議員を志す男が、この齢になって独身は正直、世間体が悪い。」


「じゃ、私は世間体を取り繕う為の道具ってことですか?」


思わず、冷たい声で言ってしまうと


「そう言われてしまうと、身も蓋もないな。」


秘書官は苦笑いを浮かべる。
< 182 / 238 >

この作品をシェア

pagetop