Thirty’s
第二十一章 誰と歩みたいのか
翌朝、総一郎は出発して行った。私を起こさないようにと気を遣ってたみたいだけど、それは無理。というか、またまた私はほとんど眠れなかったから。


でも彼が出て行くまで、私は起きることもなく、もちろん見送ることもなく、ベッドの中で過ごした。そして、彼が出て行ったのを見計らって、身支度を整え、家を出た。


出勤して、いつも通りに業務をこなす。茉莉が、何か言いたそうに、聞きたそうにしてるのはわかったけど、私は知らんぷりを通す。そして退庁、特別なことは何もない一日・・・と言いたいところだけど、一つだけトピックスがあった。昼休みに大臣に呼び出されたのだ。


私クラスの官僚が仕事で大臣と一対一で会うことはまずありえない。まして、わざわざ昼休みの時間に呼ばれたということは、当然例の件絡みだろう。果たして


「もっと早くお目に掛かりたかったんだが、なかなか時間がなくてね。申し訳ない。」


慇懃に切り出した大臣は


「息子がいろいろ言ってるようだね。」


そんな言い方をして来た。


「単刀直入に聞かせてもらうが、君に迷惑をお掛けしてないかね?」


「迷惑とは思っておりません。正直、光栄なお話だと思っております。」


「そうか、ならいいんだが・・・。」


ホッとしたような表情になった大臣に


「ですが、これは率直に申し上げますが、今回のお話をお受けするかどうかは、まだ熟慮中です。秘書官のご期待に沿えないことになることも、十分にございます。すぐにお返事できずに申し訳ございません。」


私がこう言って、頭を下げると


「なんと言っても、人生の大切な選択だ。少なくとも私は急かせるつもりも、まして強制するつもりもない。息子にもそれはよく言ってあるつもりだ。」


大臣は穏やかな表情で言う。


「ありがとうございます。ところで大臣、せっかくこんな機会を頂いたので、ひとつだけ確認させていただいて、よろしいでしょうか?」


「何なりと。」


「大臣は、大切な後継者であるご子息の妻が、私のような者でよろしいのですか?」


そう言った私を目を細めて見た大臣は


「君の人となりは、この一年あまりの付き合いで理解しているつもりだ。ましてや、私が結婚するわけじゃないのだから、君たちの結論に従うだけだよ。」


笑顔で答えた。
< 189 / 238 >

この作品をシェア

pagetop