Thirty’s
「でも、その様子じゃ、あなたのアタックも進展してないみたいだね。」


「はっきり言って、全然相手にされてません。」


私の指摘に、三嶋さんは意外にもあっさりと苦戦を認めた。


「だからこそ、不安になるんです。だって、大本命の唯さんとふたりきりの旅行なんですよ。」


「でもこの前、あなたは焼け木杭に火が付くことはないって、自信満々に私に言ってたじゃない?」


「それはそうですけど・・・でもその場のムードに流されるとかあるじゃないですか?なんと言ったって大人の男と女、それも元彼氏彼女のふたりが同じホテルに泊まって、ひょっとしたら、部屋も同じかもしれないじゃないですか!」


「まさか。」


「きっとそうです。」


「総一郎は・・・少なくともそんなけじめのないことはしないよ。」


私が言い切ると、三嶋さんはハッとしたようにこちらを見る。


「そんな総一郎が、私たちから言わせれば、こんな下心ミエミエの出張に応じた。そこにはそれなりの考えというか、覚悟があるんじゃないかと、私は思ってるんだ。」


「総一郎のことだから、ただ仕事だからという建前に押し切られただけかもしれません。」


「そうかもね・・・でも私はたぶん、彼は今回の出張でなんらかの結論を出すつもりで、この業務命令を受けたんだと思う。もちろん、それは唯さんとよりを戻すという結論なのかもしれない。でもそうだとしても、総一郎は向こうで雰囲気に流されて、そうなってしまったから・・・なんてことはしない人だと信じてる。」


テ-ブルに並んでいるお酒にも料理にも手を付けずに、ずっと話していた私たちに、ここで沈黙が流れる。


「信じてる・・・ですか。」


やがて、ポツンと三嶋さんが口を開いた。


「信じてるっていうより、信じたいって言った方が正しいかも。」


苦笑いを浮かべた私の顔を、少し眺めていた彼女は


「凄いですね。」


「えっ?」


「この状況で、まして彼と仲違いしている状況で、彼を信じる、信じたいって言えるって・・・私、初めてあなたに負けたと思いました。」


そう言って、微笑を浮かべる。


「ここで私たちに勝ち負けが決まったとしても、意味ないんだけどね。さ、取り敢えず食べよ。さすがにお腹すいちゃった。」


「修羅場でもお腹は、すきますからね。」


そんなことを言い合いながら、私たちは箸を取った。
< 191 / 238 >

この作品をシェア

pagetop