Thirty’s
「悠。私ね、ある人からプロポ-ズされてるの。」


『えっ?』


「そして、それを断ってない。保留にしてる。」


悠がスマホの向こうで、息を呑んでいるのが伝わって来る。


『どういう、こと・・・?』


ようやくという感じで尋ねて来た悠に


「その人が示してくれた未来に、正直心惹かれてる。」


そう答える。


『加奈・・・。』


信じられないと言わんばかりの声音の悠。


「ううん、そんなの嘘。いや、100%嘘じゃないけど・・・。」


自分でも何を言ってるのかわからない。落ち着け、私!


「自信なくなっちゃったんだよ。」


『・・・。』


「私と一緒にいることが、本当に総一郎にとって、幸せなことなのかって。」


『加奈、何バカなことを・・・。』


「だって、そうでしょ?総一郎は結局ずっと苦しんでるんだよ。自分が私にふさわしいのかって。」


『でも、そのことは・・・。』


「そう、乗り越えてくれた。だから、私と付き合ってくれたんだし、結婚を前提に同棲も始めたんだと信じてたんだよ。でも、違ってた・・・。それが今回のことのそもそもの発端だったんだよ。」


『加奈・・・。』


「『総一郎の意気地なし!』そう言いたい気持ちはあるよ。でも、そう言って責めても、結局は彼を苦しめるだけ。だとしたら・・・私はもう彼の側にいるべきじゃない。そうじゃない?悠!」


とうとう言ってしまった、私の偽らざる本音。茉莉にも三嶋さんにもここまで赤裸々には言えなかった。ぶつけられるのは悠か由夏しか、私にはいないんだ・・・。


「私自身がこうやって揺れてるんだから、総一郎のことをどうこう言う資格なんか、今はないんだよ。だから私は・・・総一郎が何か結論を出したら、それを受け入れる。それしかない、出来ないんだよ。今の私には。悔しいけど、情けないけど・・・それしか・・・。」


最後に涙声になって、私はスマホの向こうに訴える。


悠の声は・・・返って来なかった。
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