Thirty’s
「綺麗だなぁ。」


ホテルの窓から、外を眺めていた俺は思わず、そう呟いていた。


「なかなかのものでしょ?」


後ろから声を掛けて来た唯が、そのまま横に並んでくる。


「そうだね。」


彼女の顔を見ずに、答える。


先ほどまで俺たちは、このホテルの屋上にあるレストランで夕食を摂っていた。はっきり言って、それは「ディナ-」というしかないメニュ-だった。美味しかった、素直にそう思わされた。


当然、企業の出張で泊まれるランクのホテルではない。


「会社の出張で来てるんだから、当然所定の経費しか出ない。差額は私のポケットマネ-、せっかく久しぶりにふたりで旅行に来たのに、ビジネスホテルなんて味気なさすぎでしょ。」


ホテルの前で、言葉を失っていた俺に、唯は当然のように言うと艶然と微笑んだ。


『旅行』、彼女はそう言った。いや、違う。その前に『会社の出張で来てるんだから』と前置きもあった。


まさしくその通り。これは『(株)サーチ引っ越しセンタ-白鳥唯専務の業務DX化の深耕に向けての視察出張』、俺はそのお供を上司である河北麻里子室長から仰せつかって、ここまでやって来た。


実際、昼間のシステム開発現場の視察は有意義であった。現場のスタッフたちは、懇切丁寧に現状を説明してくれたし、専務も遠慮なく、質問、疑問をぶつけていた。質疑応答を繰り返し、今すぐ会社のシステムに導入すべきもの、逆にこういう改善点が必要ではないのか?そんな意思疎通が図れた。


唯の発言は的確で、彼女が決してお飾りの専務じゃないということを、俺は改めて認識させられた。
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