Thirty’s
こうして今、俺は唯とふたりきりでいる。どんなに加奈を不安にさせているかなんてわかってる。先輩が何を考えてるんだと怒りの電話を掛けて来た気持ちもわかる。


でも、さすがにこんな豪華なホテルに泊まらされるとは思ってなかったけど、俺は全てを飲み込んで、ここにいる。河北さんに背中を押されたからではあるが、自分の意思で。


「加奈さんとうまくいってないんでしょ?」


「えっ?」


「大人しく、この出張に着いて来てくれたっていうことは、そういうことなんでしょ?」


「別に大人しく着いて来たわけじゃないけど、いろいろ思うことがあってね。」


「やっぱり私、間違ってなかったな。私の予言通り、桜井さんとじゃ、ソウくんは幸せになれないよ。」


その唯の言葉に俺は何も返さず、ただ窓の外を眺める。


「桜井さん、山本さんにプロポ-ズされてるんでしょ?」


「彼から聞いたのか?」


「うん。山本さん、言ってたよ。『加奈は俺がもらうから、君はちゃんと沖田くんを捕まえろ』って。」


「大した自信だ・・・正直、羨ましいよ。」


「えっ?」


「僕に、彼のその自信のひとかけらでもあれば、加奈はきっと彼のプロポ-ズになんか揺れることはなかったはずだ。全ては僕の・・・不甲斐なさが原因なんだ。」


そんな言葉が口をつく。


「ソウくんらしいね。」


「えっ?」


「なんでも自分のせい。自分がダメだから、自分が力がないから・・・あなたは自分の凄さも魅力もひとつもわかってない。」


「僕の凄さと魅力?」


「それに真っ先に気が付いたのが私。二番目が桜井さん、だいぶ遅れた三番手が三嶋さんだっけ?あなたのかつての後輩。」


そう言うと、唯は微笑んだ。
< 199 / 238 >

この作品をシェア

pagetop