Thirty’s
「仮定の質問には答えられないな。」


「なにそれ?政治家か高級官僚みたいなこと言って。彼女の影響受けちゃったわけ?」


「そんなんじゃないよ。でも・・・あの時、君に別れを告げられるまで、僕は君との未来を疑ったことはなかった。」


「ソウくん・・・。」


「でもね、僕は君を可愛い彼女だと思ってたけど、SHIRATORIホールディングスの跡取りお嬢さまだと意識したことはほとんどなかった。いや、たぶん無意識にその現実を見ないようにしていたんだろうな。」


「・・・。」


「君と付き合い、未来を疑ってなかったくせに、それって極めて無責任だったと今更ながら思う。だから、あの時、君が決断しなくても、いつか壁にぶち当たってしまっていたような気がする。その時、それを乗り越えられたかは・・・ごめん、正直言ってわからない。」


これが唯の望んだ答えだったかはわからない。でも俺には、これ以上のことは言えなかった。


「そうだよね、私、何を求めてたんだろう・・・困らせてごめんね。」


「いや。ただもうひとつだけ言えることは・・・全部が全部、君のせいじゃない。それだけは間違いないってことだ。」


「ソウくん・・・。」


その後、お互いの顔を少し見ていた俺たち。


「遅くなっちゃったな・・・そろそろ自分の部屋に戻るよ。」


「そう、だね。」


「あ、そうだ。明日は普通のビジネスホテルに泊まらせてもらうよ。」


「はいはい。」


「あと・・・明日までは責任もって、専務に仕えさせていただきます。その後は・・・。」


「辞表でも出すって言うの?」


「・・・。」


「桜井さんの為に前の会社辞めて、今度は私の為にまた会社辞めるの?」


「だって・・・。」


「そんなの許さない、絶対に認めない。」


「唯・・・。」


「仕事は仕事、プライベ-トはプライベ-ト。きちんと切り分けたらいいだけでしょ?私だって、もうそのくらいの分別はつくつもりだよ。いつまでもお嬢ちゃん扱いしないで欲しいな。」


「そんな、専務に対して、滅相もございません。」


「よろしい。じゃ、明日から改めてよろしく頼みます。沖田さん。」


「かしこまりました、専務。」


次の瞬間、俺たちの間に笑いが弾けていた。
< 201 / 238 >

この作品をシェア

pagetop