Thirty’s
「なんで、そう思うんだ?」


「帰って来た時の顔見て、すぐにわかったよ。全然後ろめたそうな顔してなかった。」


「・・・。」


「それに・・・。」


「それに、なんだ?」


「ま、これはいいか。」


三嶋は言葉を濁すと


「私、どうしても桜井さんにだけは、あなたを渡したくないんだ。」


そんなことを言い出す。確かに前にもそんなことを言ってたような気がするな・・・。


「それに私には、どうしても簡単に引けない理由がある。」


「理由?」


「そう。実はさ、私本当は今頃、こんな所にいられるはずなかったんだよ。だって、結婚して、会社も辞めてるはずだったんだもの。」


「なんだって・・・?」


あまりに意外な三嶋の言葉に、俺は耳を疑う。


「四年前、最後に会った時、私、会社の先輩にコクられたって言ったの、覚えてる?」


「そうだったな。」


「その人とそのまま付き合って、プロポ-ズされて、婚約して、式挙げる準備を進めて・・・でもダメだった、私がダメにした。」


「なんで?」


「自分の本当の気持ちに気付いちゃったから。」


「本当の、気持ち?」


「そう。私はね、その人のことを本当に愛してはいない。ただ総一郎を忘れられない自分の気持ちを誤魔化す為に、結婚しようとしてるだけなんだって。」


「三嶋・・・。」


お前、何言ってるんだ・・・この後のセリフは口に出せなかった。そのくらい衝撃的な言葉だった。


「だとしたら、このまま結婚するなんて、相手にあまりにも失礼だし、そんな結婚生活が上手く行くはずない。そう思って、ちゃぶ台返ししちゃった。当然、会社まで巻き込んだ大騒動になって、その人には本当に申し訳ないことをしたと、今でも思ってる。でももう戻れなかったんだ。」


そう言って、三嶋は一瞬俯いた。
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