Thirty’s
「俺はそれが出来る立場にいたからな。でも考えてみろ、俺がそんな思惑だけで動いたとして、大臣たる親父も人事局もそう易々とは認めない。加奈が優秀であることを、大臣官房に必要な人材だとみんなが認めたから実現したことだ。むしろ、感謝して欲しいな。」


その言葉に、私は黙って山本さんを見る。


「加奈。世の中、綺麗事だけじゃ動かないんだよ。」


「・・・。」


「君だって霞が関にもう何年もいるんだ。そんなことくらいわかってるだろう?正しいことを通すにも、やりたい仕事をするにも、力がいる。立場も必要だ。時には人脈だって使わなきゃならない。」


「・・・。」


「俺と君なら、その力を持てる。いや、これからもっと大きく出来るんだ。」


そう言って山本さんは、フロントガラスの向こうに見える国会議事堂へ目を向けた。


「そうですか。」


私はようやく口を開いた。


「私の力を認めていただき、ありがとうございました。そう、御礼を申し上げるべきなんですかね?」


「加奈・・・。」


「でも、私の気持ち、私の希望というものが、どこに反映されてるんですか?」


その私の言葉に、山本さんはハッとした表情を浮かべる。


「はっきり申し上げて、私は大臣官房からの異動を希望してました。次はもっと政策立案に直接関われる部署を、そう思ってました。」


「・・・。」


「もちろん個人の希望や思いが、全て人事に反映されるなんて思ってません。ただ、お話を伺ってる限り、今回私は異動対象になっていたと思われます。それを・・・あなたの、それも個人的な思惑が潰したということですよね?」


「・・・。」


「今回はこれからの私の力になる、後ろ盾になるはずのあなたの力が、私にとっては完全に裏目に働いた、そういうことなんです。」


最後に静かにそう言うと、私は秘書官を真っすぐに見た。
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