Thirty’s
秋が深まって来た。臨時国会は佳境に入り、私の帰宅時間はまた遅くなって行く一方。


「岡崎(おかざき)先生からの質問通告はまだ?」


「はい。何度か問い合わせてるんですけど・・・。」


困り顔で答える茉莉。私は思わずため息をつく。


「仕方ないね、こうなったら今夜も長期戦だよ。取り敢えず、交代で夕飯にしよ。」


「わかりました。」


そんなことを話していると、目の前の電話が鳴る。一瞬、山本さんの顔が浮かんだが、もう彼はいない。


受話器を取ると


「桜井係長にご来客です。」


受付からの声。なんだ、そっちのパタ-ンかと思いながら、受話器を置き、茉莉に断ると、部屋を出る。


建物を出て、ちょっと視線を巡らせると、彼女がひっそりと立っている。


「ご無沙汰。」


声を掛けると、三嶋さんはいつものようにちょこんと頭を下げて来ると


「ごめんなさい、お忙しい時に。すぐに退散しますから、ちょっとだけ。」


申し訳なさそうに言って来る。私は頷くと、彼女と一緒に役所の建物を離れる。


あの夜を最後に、三嶋さんは私たちの前から姿を消した。私たちがどうなったか、どこからか聞いたのだろうか?気になってはいたが、こちらから連絡するのもおかしいし、何より、私は三嶋さんと連絡する術を持ってない。


「寒くなりましたね。」


「そうだね。」


「今日は・・・お別れのご挨拶に。そんなもん、今更いらないって言われるでしょうけど、一応けじめなんで。」


三嶋さんは私の顔を見て、そんなことを言い出した。
< 227 / 238 >

この作品をシェア

pagetop