No Title
「でっかく未定って書いてやればいいんだよ、あんなの」
「蒼伊は大学行くの?」
「まあ一応。売れなかったときのため」
「なに系の大学に行くとか決めてる?」
「決めてない。そん時の学力と相談」
「……そっか、まだ決めなくてもいいか」
「こんな大学あるんだなーくらいで見とけばいんじゃね?」
「たしかに」
「ぼけーっとみてたら行きたいとこ見つかるかもしんねーじゃん。やりたいことなくても、この大学のキャンパス綺麗そうとか、そんなんでいいだろ」
「そんなんでいいの?」
「就職活動なんてどの学科で手もそんなに差ないだろ」
「そうなの?」
「知らんけど」
「知らんのかい」
蒼伊には5つ離れたお兄ちゃんがいるらしい。
大学4年生の兄貴はぬるっと就職先も決めてた、やりたいこととか特に決めてなかった、らしいので、必ず全員にやりたいことがあるとは限らないのかもしれない。
考えすぎたら変な顔になるぞ、
またさっきの顔をしておちょくられて、笑い飛ばされてしまった。
「お前さ、俺らのバンドの名前、知ってる?」
「ん-と、ノール、って呼ばれてるのは」
それを知っている理由はもちろん剛くん。彼が自分のバンドのことをよくそう言っている。
どういう意味なのかは聞いたことがなかった。
可愛い名前なのかなとか、勝手に想像してた。
「‘No Title’の略。で、ノール」
「ノータイトル、」
「『なににも染まらない、なににも定義づけられない、俺らの音楽にも、関係にも、はっきりとした名前はいらない』」
「――――、」
「まだ白紙でいいだろ、若いから。いつか今やってることとかが意味のあるものになればいい。っていう、くそかっこつけた意味がある」
「……すごい、」
「いや、ダセーだろ。クソガキ感満載で」