No Title
初めて知ったバンドの名前の意味。
こんなにちゃんと意味が込められているのか、わたしの知っているアーティスト達も、知らないだけで明確な由来もあったりするのかな。
本当にこの人は、わたしと同じだけ歳を重ねてきただけなのだろうか。
やっぱり、同じ高校2年生だとは思えなかった。
菊池蒼伊は、わたしとおなじところにいるのに、どこか違う世界も知っている人のようで、遠いひとなのかもしれない。
隣にいるなんて、変なの。
いつかすごく遠くに行ってしまう人なんだろうな、彼が有名になる未来が、見える気がした。
こんなに近くにいるのに。
「……白紙で出そ」
「いいじゃん」
「ねえ、うたって。ノールの今ある歌、聴きたい」
「俺の歌は高いぞ」
「えー」
「俺ばっか歌うのもだし、深咲が一曲歌って」
「え、ヤダ。私歌上手くないもん」
「気になる。歌って」
「イ・ヤ」
ずっと鳴らされなかったギターが、流行りのドラマの主題歌のイントロを鳴らす。
人気ガールズバンドの曲だ。ギターをかき鳴らす顔はほらはやく、と言わんばかりに笑っている。
「蒼伊が歌ったら歌ってあげる」
「なんでそんな上からなんだよ」
「この曲の蒼伊バージョン聴きたいもん。ほら、部活動時間中でしょ?うたえうたえ」
「うるせえぞサボり」
「あ、ひどい。来いって言ったのそっちなのに」
「来いとは言ってねえよ、来ればって言って、お前の意思で来たんだよ」
「あー言えばこういう!」
「そっくりそのまま返すわ」