獅子の皮を被った子猫の逃走劇

喉元過ぎればなんとやら

 「―――は、――であるからして、―――である」


 黒板では数学教師が眠そうな眼を擦りながら授業をしていた。昨夜は、夜更かしでもしたのだろうか。

 そんなことを呑気に考えながら窓の外を見てみると、親鳥が必死に雛鳥に餌をあげているのを見つけた。

 ……平和だなー。

 光陰矢の如しとはこの事か、という程に日々はあっという間に過ぎ、気づけば入学式から1ヶ月が過ぎようとしていた。

 ヤンキー高校に入学して早1ヶ月。
 色々と予想外な点がいくつもあった。

 一つ、良いヤンキーと悪いヤンキーがいる。
 二つ、ここにいる皆がみんなヤンキーではない。
 三つ、総長業が楽すぎる。

 ざっとこんなもんだろう。どれも嬉しい誤算だった。


 「てめゴラァ!!やんのか!?」
 「上等だゴラァ!表でやがれっ!」


 授業中でもケンカを始めるのは、少しばかり迷惑だが、まあそこには目をつぶるしかない。

 ひょいひょい。

 文房具なり椅子なり、飛んでくる流れ弾を避ける。

 私の使い所の無いと思っていた、動体視力の良さが今生かされているように思う。


 「人生ってわっかんないなあ」


 とりあえず"無敗の獅子"という通り名をつけられてしまった件に関しては、文句を言いたい。
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