獅子の皮を被った子猫の逃走劇

本気で言ってます?

 桜庭(さくらば)獅音(しおん)、16歳。

 とても平凡な女の子です。

 悲しいかな、人より秀でた才能は一つもない。

 強いて言えば動体視力が良いことだが、こんな田舎の地では必要なかった。

 能天気、と言うか思い立ったが吉日がモットーな両親に振り回されながらも楽しく過ごしていた日々。


 とある日。
 本当に何でもない日に急に両親は言った。


 「しーちゃん、私たち今から海外旅行に行くから親戚の家に預かってもらうね?」
 「は?」


 いやいやいや、どうゆうこと?

 私の困惑もそのままに母は続ける。


 「さっき福引きで海外旅行券が当たったのよ〜。この際ちょうどいいから世界一周の旅しちゃおって、たっくんと話になったの」


 たっくんは父のあだ名だ。本名は拓哉(たくや)


 「い、いつから行くの?」
 「?今から行くわ〜」


 うわまじか……!そんな気はしてたけどまじか!


 「しーちゃんの荷物はもう送ってあるから、手ぶらで向かっていいからね〜。はいこれ地図よ」
 「わ、分かった。ありがとう」


 こうして私は見知らぬ地へと向かうことになったのだ。

 もし未来の私がこの時の私に会いに来れるのだとしたら、往復ビンタをかましてでも止めていただろう。

 そのくらいのことが、私を待っていた。

 そんなこととは露知らず、呑気に歩く私をさんさんと太陽が照らしていた。

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