獅子の皮を被った子猫の逃走劇
 「っ!折田先輩!」


 走ってさっきの場所まで戻ると、既に決着は着いていたようで静かだった

 倒れている虎月の人たちが目に入った。
 私がいた時よりも人数が増えていたことにぎょっとする。

 先輩は、と探すと近くの壁を背に座り込んでいたのを見つけた。


 「おま……、なんで戻ってきた」
 「先輩が心配になって……って!怪我してるじゃないですか!」
 「あ?心配とか要らねえっつっただろ、こんな傷舐めてたら治る」
 「そんな訳ないでしょっ!」


 突然声を荒らげた私に、驚いた表情を浮かべる先輩。

 だって、だって。

 どうって事ないって言う先輩の身体は傷だらけなのだ。

 瞼が切れてしまったのか、とめどなく流れ出る血で片目は閉じられている。

 それだけじゃない、口も肩も拳も。

 至る所に傷ができていた。

 服に着いている血は、返り血か先輩の血か私には判断出来ないけれど。

 傷だらけの先輩を前に、堪えていた涙がとめどなく溢れ出した。

 泣いてる場合じゃない、早く先輩を治療しなきゃって思うのに、涙は一向に止まらなくて。

 嗚咽をあげながら泣きだす私に狼狽える先輩。

 言いたいことはいっぱいあるのに、全然言えない。


 「ああもう!大丈夫だっつってんだろ!」
 「っ!」


 気づいたら折田先輩の胸に飛び込むような形になっていた。

 驚く私だけど、頭をトントンと叩く先輩の優しさにシャツを濡らす涙が余計止まらなくなってしまった。
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