獅子の皮を被った子猫の逃走劇
 ようやく涙が止まった頃。

 私は、先輩に抱きついている体制になっていたことに気づき、慌てて離れた。

 怪我してる先輩に何してんだ私は。


 「ずみまぜん……」
 「ふはっ、」
 「え!!せ、先輩が笑った!」


 わ、笑ったよね今?

 あの無表情がデフォルトで、何か変わるとしたら不機嫌顔の、あの折田先輩が!


 「何アホなこと言ってんだ、誰でも笑うだろ」
 「いやいや、それが折田先輩なかったんですよ!だから今めちゃくちゃ嬉しいんです」
 「ふーん。……とりあえず帰るぞ」
 「え、あっ、怪我!」
 「んなもん、もう治った」


 そう言って、さも何もありませんでしたよとでも言うように歩き出す先輩。

 かなり怪我しているはずなのに。

 一瞬驚いたけれど、私は気付いた。

 先輩の右足の歩幅がいつもよりも狭いことに。

 先輩に向かってこんなことを思うのは失礼なことだけど、弱みを見せまいと強がる姿に少し可愛いと思った。

 「待ってください、!応急処置だけでもしたいのでうちに寄って行ってください」

 西日に照らされた二人の影は大きく伸びていた。


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