獅子の皮を被った子猫の逃走劇

はじまり side . R

 「ただいまー」
 「邪魔する」


 俺は今何故か、後輩の家にいる。

 変なとこだけ押しの強い後輩、桜庭獅音に半ば強引に家に引っ張り込まれた。

 自分の家の中だろうに、ここでもないそこでもないと、ちょこまか動き回っている獅音の横顔を見ながら思い出す。


 ……こいつは本当に変なやつだ。

 思えば、最初から変だった。

 入学式、俺ら幹部は新入生に調子づかせないように、一通り暴れた。

 今年は手応えない奴ばっかだったと苛立ちながら、朔と歩いていれば倒れているトップがそこにいた。

 周りが一気にざわめいて、誰がやったのかと話し始めた。

 俺も、おそらく朔も気になって近づいてみれば、そこにいたのはちっさい男で。


 ――こんなチビにやられたのかよ。


 力だけは誰にも負けねえって思ってここに来た日に、俺はあのトップにコテンパンにされたのに。

 俺よりもそのチビが優れているという事実が、どうにも納得できなくて。

 黒い笑顔を浮かべる朔の隣で、ひたすらにチビと目を合わせないようにしていた。

< 26 / 73 >

この作品をシェア

pagetop