獅子の皮を被った子猫の逃走劇
 ようやく始まった入学式。

 めんどいし、どっかの空き教室で一眠りでもしようと思っていた、

 が。

 今の俺は、体育館の壇上の、チビの横に立っていた。

 俺の威厳を左右する大事な秘密を朔に握られている俺は、言う通りにこのチビ――獅音のお世話係をすることになってしまった。

 ここまで来ても何で俺が……と内心で毒づいていた。


 『ぁ……』


 カスカスの、すぐ横にいる俺にしか聞こえないだろってぐらいの声を出す獅音。

 くりくりしたでかい目は、体育館内のあちらこちらに動いて、手も足も震えていた。

 ……何だ、緊張してんのか。

 そこで初めて俺は、獅音を変な奴だと思った。

 アイツを倒したほどの実力があるはずなのに、なよなよしてるし。

 なよなよしてるだけかと思えば、ここに来るまでに俺含めイカツイ奴らに挨拶されても、普通に目を見て返すし。

 やっぱり度胸あるのかと思えば、今この有り様。


 『ふっ、』


 そのアンバランスさが俺には面白くて。

 毎日毎日、寝るか殴るかの繰り返しで退屈だった。

 久しぶりに自分が笑ったことに気づく。


 きっとこいつは、今俺が少し背中を押してやれば――
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