獅子の皮を被った子猫の逃走劇

気付いた気持ちは side . R



 「折田先輩、ここに座ってください」
 「ん」


 俺の前に座り、慣れた手つきで救急箱の中身をあさり始める獅音。

 目を閉じろと言われ、素直に従う。

 脳裏に映し出されるのは今日のこと。


 平常心を装ってるつもりだろうけど、如何にも気になってますと書かれていた顔。

 たい焼きを与えると、両頬いっぱいに詰めて幸せそうに食べる姿。

 それをぼうっと見る俺に気づいて焦りだし、好物なのに俺に分けてくれようとする心。

 そして、

 誰よりも怯えていたくせに、すぐに戻ってきたこと。



 『あァ……?』


 アイツらを全員ぶっ飛ばしてから、自分がボロボロなことに気付いた。

 よく分かんねえ武器持ってきやがった上に、単純な人数差でおされた。

 視界がぐにゃりと歪み、ふらついてしまう。

 血流しすぎたな……。


 『あいつ、ちゃんと逃げれたか、?』


 少し休めば回復するだろうと、道端に座り込んだ俺は獅音のことを考えていた。

 建物の隙間から差す西日が眩しくて、目を閉じようとした時にその声が聞こえた。


 『っ!折田先輩』
 『っ……』


 獅音は気づいていないが俺は息を呑んだ。




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