獅子の皮を被った子猫の逃走劇
何で戻ってきたんだ、と怒るつもりだった。
だが、獅音は俺が言うより先に、俺の前に座り込んだ。
そして、眼と眼を合わせてくる。
――何でだ、?
今すぐにでも泣き出しそうなほどに目いっぱいに涙を溜めている獅音。
何でそんなに泣きそうなんだ。
誰にやられた、?
アイツらは俺が全員倒したはずなのに。
原因は何も思い当たらなかった。
でも獅音をそうさせている何かをすべて払い除けて、
その涙を、憂いを、どうにか拭ってやりたくて。
元気づかせようと気丈に振る舞って見せれば、獅音は初めて声を荒げた。
『そんな訳ないでしょっ!』
獅音の初めて見る姿に驚く間もなく、獅音は嗚咽をあげながらに泣き出した。
突然のことで、どうすれば良いのか分からない俺に、獅音は泣きながらポツリポツリ吐き出した。
”怖かった”
”折田先輩”
”怪我しないで”
なんとか聞き出せた言葉をくっつけて、耳を疑った。
……俺が怪我しているからこんなに泣いているのか?
人に心配されたことは初めてだった。